動物利用と環境問題の関係

関連問題

動物利用と環境問題の関連性

  • 2024/11/21

畜産や漁業は、環境問題を引き起こす主要原因の一つです。

2006年11月29日、国連食糧農業機関(FAO)から発表された報告書「家畜の長い影」(Livestock’s Long Shadow)は、世界に大きなインパクトをもたらしました。これ以降、動物利用に伴う環境破壊に関する研究は発展し、近年日本でも知る人が増えてきました。[1]

このページでは、動物利用と環境問題の関連性について網羅的に学びます。

動物利用と10の環境問題

動物利用、特に食肉生産と漁業は、環境に対し極めて大きなインパクトをもたらします。

以下に、動物利用によって引き起こされる環境問題を分類し整理します。キーワードやデータを並べていますが、一つ一つの問題が重大で深刻な問題です。さらに知りたい方はキーワードを拾って深めていただければと思います。

1. 土

汚染: 糞尿(窒素・アンモニア等)による汚染、化学物質汚染、土壌塩分濃度の上昇、土壌侵食、圧縮、土壌の栄養循環の阻害

土地の利用:世界中の農地の83%が畜産業に利用されている。[2]

2. 水

汚染: 海・湖・川・湿地・河口・地下水等の汚染、富栄養化、藻類ブルーム(赤潮、青潮、白潮、アオコ等)、デッドゾーン(海や湖の貧酸素・無酸素水域)

使用量: 大量の水道水や地下水の使用。地下水の枯渇が起こっています。水1リットルあたり生産されるカロリーは、野菜1.34kcal、豚肉2.15kcal、卵2.29kcal、鶏肉3.00kcal、羊肉/山羊肉4.25kcal、牛肉10.19kcal)と、食肉製品の方が高くなっています。[3] 

3. 空気・気候変動

温室効果ガス: 畜産業は農業の温室効果ガス排出量の60%を生み出している。[2]

また、ワールドウォッチ研究所は、畜産由来の温室効果ガス排出量は少なくとも51%を占めていると主張しました。[4] 

日本人の年間平均牛肉消費量6.2kg。これを生産するのに、124kgのCO2を発生させています。これは自家用車で約1,000km走った際の排出量と同等です。

乳牛の飼育は、肉牛の倍以上の温室効果ガスを発生しています。[5]

4. ゴミ

畜産・漁業・動物実験など、動物産業は、大量のゴミを排出します。

漁業や釣りは、網や釣り糸、発泡スチロールなどのプラスチック製品を使うため、自然環境に流出し、マイクロプラスチックとなります。太平洋ゴミベルトのゴミのうち、漁網が46%を占めます。また網はゴーストネットとなり、網が朽ちるまで膨大な動物を殺し続けます。[6]

5. 化学物質・重金属

化学物質の流出: 畜産・養殖・動物園・水族館などから、ワクチン、抗生物質、ホルモン剤、殺虫剤、消毒薬、重金属等が自然界に流出しています。抗生物質は、薬剤耐性菌の発生につながり問題となっています。

動物実験では、様々な薬品、神経毒、発がん性物質などが使われ、研究者などに健康被害を与え、死んだ動物などの焼却施設を通じて環境に排出されます。[7]

6. エネルギー利用

畜産や漁業は、暖房、冷房、輸送、内燃機関、冷蔵等で化石燃料を消費しています。

7. 植物

森林破壊: 牧草や家畜用トウモロコシなど、人間が食べられない植物の単一栽培による森林破壊や熱帯雨林破壊が問題となっています。例えば、アマゾンでは、1970年以降に伐採された土地の91%が牛の飼育に使用されており、森林破壊の80%が畜産が原因となっています。[8] [9]

生態学者のノーマン・マイヤーズ博士は熱帯雨林の消滅について「(人類が)洞窟から出て以来最悪の危機の1つ」と言っています。

8. 動物

動物利用は、野生動物の生息数の減少、生物多様性の破壊、絶滅、微生物群集の破壊などを引き起こしています。「生物多様性及び生態系サービスに関する世界評価報告書」(2019 IPBES)は、絶滅の主な原因は、工業型農業(食肉産業と乳製品産業)と乱獲であるとしています。

漁業における底引網漁や刺し網漁などの乱獲や混獲は深刻で、目的外の魚類はもちろん、鳥類や哺乳類も殺しています。

9. 動物汚染

陸生動物や水生動物のうち、野生動物は環境の一部です。流出した化学物質や重金属等に汚染されています。畜産動物や養殖動物は、薬品、化学物質、消毒薬等によって汚染され、遺伝子組み換え、ゲノム編集等によって遺伝子を汚染されています。

10. 人体汚染

汚染されるのは環境や動物ばかりではありません。人間も汚染されています。畜産によって、労働者や周辺住民の身体が汚染され、喘息・気管支炎等呼吸器系疾患、目や鼻の炎症等様々な病気に苦しめられています。汚染の原因は、動物の排泄物、アンモニア、排泄物中の化学物質、硫化水素、埃等です。[10] [11]

また、薬剤耐性菌の発生による感染症や、重金属の生物濃縮が、人間の健康被害につながっています。

米:畜産廃棄物の危険性 | The New York Times

その他社会問題

南北問題、モノカルチャー、貧困問題、経済の格差、動物植民地主義(1. 動物を使用する植民地化、2. 外国に動物に関する慣行等を押し付けること)、他国の食料安全保障の侵害等、さまざまな社会問題を引き起こしています。

畜産は非効率な食料システム

これだけの問題を引き起こし、世界中の農地の83%を畜産業に利用しているにも関わらず、動物由来の食品は人間のカロリー摂取量の18%、タンパク質摂取量の39%にしか過ぎません(FAO、2019 年)。[2]

現在、世界では約8億人が飢餓に苦しんでいると言われていますが、一方で、畜産業が占有している資源を直接人々の食料生産に充てれば、世界人口を大幅に上回る食糧が賄えます。

先進国の「肉」等の畜産物への欲のために、食糧を占有すべきではありません。

家畜動物・人間・野生動物の割合

牛・羊・ヤギ・ブタ頭数推移

家畜動物の頭数の推移

Total Number of Livestock Animals in The World. ReserchGate. https://www.researchgate.net/figure/Total-Number-of-Livestock-Animals-in-The-World_fig2_337783628, (参照 2024/09/08).

上記の図は、家畜動物の頭数の推移を表したものです。1945年以降、第二次世界大戦後に急激に増加していることがわかります。

ニワトリ羽数推移

ニワトリ羽数推移
Population of the most popular poultry species in the world (£ 1,000) (FAOSTAT Food and Agriculture Organization of the United Nations FAO, 2022). ReserchGate. https://www.researchgate.net/figure/Population-of-the-most-popular-poultry-species-in-the-world-1-000-FAOSTAT-Food-and_fig4_362671701/, (参照 2024/09/08).

ニワトリの数も急激に増えています。

地球上の哺乳類の割合

家畜、人間、野生動物の割合

上記の図は、The Gurdianの記事「人間は全生物のわずか0.01%だが、野生哺乳類の83%を破壊した」から作図したものです。人類はこれまで、野生動物の83%を殺してきました。そして、第二次世界大戦後から、急激に家畜動物を増やし、現在では哺乳類全体のバイオマス(質量)の60%を占めるに至りました。現在の生活を続けるとさらに野生動物は減少していくでしょう。

植物農業や野生植物の採取も環境問題を引き起こしますが、畜産や漁業、野生動物の捕獲は地球環境を変えてしまうほどの環境被害を引き起こします。

先進国の人々が肉食をはじめとする豊かな生活を送るために、動物はもちろん、地球環境、そして貧しい人をも破壊しています。

動物の被害

人間から受ける、家畜動物と呼ばれる動物たちの被害や水生動物の被害は目を覆いたくなるものばかりです。このページでは詳細には触れません。詳しくは、以下のリンクをご参照ください。

家畜動物

肉牛  https://animal-liberator.net/issue/cattle-farming/

乳牛  https://animal-liberator.net/issue/dairy-cows/

豚   https://animal-liberator.net/issue/pigs/

肉養鶏 https://animal-liberator.net/issue/chicken-farming/

採卵鶏 https://animal-liberator.net/issue/egg-farming/

動物実験 https://animal-liberator.net/issue/animal-experimentation/

水生動物

漁業 https://animal-liberator.net/issue/seafood-industry/

養殖 https://animal-liberator.net/issue/morino-aquarium

改善・解決方法 〜環境活動とヴィーガン〜

一人が動物利用を止めることで起こせるインパクト

自分一人がヴィーガンになっても何も変わらない。確かに、一人が変わったところですぐに生産量や流通量、殺される動物の数が変わるわけではありません。

しかし、ヴィーガンという言葉が生まれたのは、1944年。今(2024年)から80年前です。英国で生まれた、ごく少人数で共有されたライフスタイル、小さい小さい運動が、現在は世界中に広がっています。ヴィーガニズムは、人々の意識を変え、哲学をはじめとする学術界を変え、政治を変え、そして経済を変え、そしてその流れは拡大し続けています。

今では、ヴィーガン製品が世界中で製造され、日本でも一般のスーパーやコンビニエンスストアでも販売されています。

自分一人が変わっても、何も変わらないでしょうか。

いいえ、どのような運動も一人ひとりの小さな力が集まることで成功してきました。

環境保護を主張しながら、動物を食べることの矛盾

環境保護を主張しながら動物を食べることは、矛盾をはらんでいます。畜産業は温室効果ガス排出、森林伐採、水資源の浪費など、環境破壊の主要な原因であり、持続可能な未来に反しています。環境保護を本気で考えるなら、動物性食品を減らし、プラントベースの食事に切り替えることが、言動の一致と実効性を伴う行動となります。[12]

《資料》動物利用と環境に関する重要なレポート

ここで、動物利用による環境破壊について発表された重要な報告をまとめます。誰かに根拠を聞かれた時などにご利用ください。

  1. 2006 家畜の長い影(Livestock’s Long Shadow) 国連食糧農業機関(FAO) 家畜生産が温室効果ガス排出の主要な原因の一つであることを初めて発表。
  2. 2009 家畜と気候変動(Livestock and climate change) World Bank Group
    家畜と温室効果ガスの研究。家畜の長い影の結果は保守的だとした。
  3. 2010 地球の食料システムの変革(The Future of Food)」世界自然保護基金(WWF) 畜産が生態系や生物多様性に与えるインパクトを詳細に分析。
  4. 2014 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書
    畜産からのメタン排出が気候変動に与える影響について報告
  5. 2021 自然との和解 国連環境計画
    農業が環境悪化の原動力であると同時に脅威にさらされていると報告

その他、国連総会、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、国連気候変動枠組条約締約国会議などが、畜産と環境破壊の関連性や、食糧システムの変革についてのレポートを行っています。 

あなたにできること

逆光に照らされた牛
  • 肉、卵、牛乳などの動物性食品を、買わない、食べない。確実に温室効果ガスを減らすことができ、その他畜産由来の環境破壊にも加担することはなくなります。
    植物性食材で、ほとんどあらゆる動物性食品を使った料理を作ることができ、しかも美味しいです。代替製品を使うこともできます。肉は、大豆ミートやセイタンなど。卵は、豆腐+ターメリックなど。牛乳は、豆乳・オーツミルク・ライスミルクなどです。
  • 魚やタコやイカなどの水生動物を、買わない、食べない。野生動物は環境そのものです。野生動物を殺して食べることは、環境破壊に他なりません。西欧では、植物性の刺身代替製品などが販売されています。日本でもそのうち販売されるでしょう。うなぎの蒲焼の代替製品はすでに販売されています。
    また、ノリや海藻を使うことによって、海の風味が出せますので、魚風のフライなどを作ることができます。レシピはネットで探すことができます。
  • オススメのレシピサイト
    ブイクック VEGAN子育て 
  • 畜産や漁業など動物利用問題と、環境問題との関係についてさらに学ぶ。をさらに学ぶ
  • 動物に起きている問題、動物の素晴らしさ、保護の重要性などについて周りに伝え、動物に関心を持つ人、動物を守る人を増やす。
    リブのウェブサイトで学ぶことができます。また、人に伝える時に使えるリーフレットも無償提供中です。
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、環境はもちろん、動物を守ることができます。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

[1] Henning Steinfeld et al. Livestock’s long shadow. 2019/09/27. https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/36ade937-4641-46ed-aac4-6162717d8a7f/content, (参照 2024/09/07).

[2] Reed , K. (2018, June 1). Reducing Food’s Environmental Impacts. LEAP. https://www.leap.ox.ac.uk/article/reducing-foods-environmental-impacts(参照 2024/09/07).

[3] M.M. Mekonnen, A.Y. Hoekstra The green, blue and grey water footprint of farm animals and animal products. https://www.waterfootprint.org/resources/Report-48-WaterFootprint-AnimalProducts-Vol1.pdf,(参照 2024/09/07).

[4] Robert Goodland, Jeff Anhang.  Livestock and Climate Change: What if the key actors in climate change were pigs, chickens and cows?. Worldwatch Magazine. 2009. https://web.archive.org/web/20191001122431/https://pdfs.semanticscholar.org/6704/c7a0777c82357704d82b9ae8007c1197cb07.pdf, (参照 2024/09/07).https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10665458/, (参照 2024/09/07).

[5] 気になる情報の解説. NBAFA. https://nbafa.or.jp/sustainable/kaisetsu/kaisetsu01.html, (参照 2024/09/07).

[6] L. Lebreton et al. Evidence that the Great Pacific Garbage Patch is rapidly accumulating plastic. National Library of Medicine. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5864935/, (参照 2024/09/08).

[7] [ ] Rebekah Corbett . Animal Research: An Environmental Perspective. faunalytics. https://faunalytics.org/animal-research-an-environmental-perspective/, (参照 2024/09/07).

[8] Unsustainable cattle ranching. WWF. https://wwf.panda.org/discover/knowledge_hub/where_we_work/amazon/amazon_threats/unsustainable_cattle_ranching/, (参照 2024/09/07).

[9] Is The Amazon The Lungs of the World? – Myths and TruthsIs– Myths and Truths. REDDA. https://redda.com.br/en/is-the-amazon-the-lungs-of-the-world/, (参照 2024/09/08).

[10] Mathilde Cohen. SYMPOSIUM ON GLOBAL ANIMAL LAW (PART I)  ANIMAL COLONIALISM: THE CASE OF MILK. 2017. https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/85D23B7D58EE049CE3AF2788B57838BC/S2398772317000666a.pdf/animal-colonialism-the-case-of-milk.pdf, (参照 2024/09/07).]

[11] S Viegas et al. Occupational exposure to poultry dust and effects on the respiratory system in workers. 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23514065/, (参照 2024/09/07).

[12] Vegan diet massively cuts environmental damage, study shows. The Guardian. 2023/07/20. https://www.theguardian.com/environment/2023/jul/20/vegan-diet-cuts-environmental-damage-climate-heating-emissions-study, (参照 2024/09/07).

この記事を書いたライター

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動物解放団体リブ編集部

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