子どものチンパンジー

娯楽に使われている動物

大型類人猿の権利獲得への道:人間に最も近い動物たちの現状と未来

  • 2024/11/30

大型類人猿は、私たちと同じヒト科に属します。ゆえに、動物の権利獲得運動において一番最初に権利が獲得される動物であると予想されます。実際、大型類人猿の権利獲得運動は、哲学者や法学者によって進められています。

チンパンジーやボノボとヒトの遺伝子は、99%同じものです。そのたった1%の違いが、大型類人猿たちを大変な苦境に立たせてきました。[1]

このページでは、大型類人猿についておさらいし、その現状、向かう未来についてまとめます。

大型類人猿はヒト科の動物

ヒト科に属する種

ヒト科に属する種は、5種。ボノボ、チンパンジー、オランウータン、ヒト(ホモ・サピエンス)、ゴリラです。

大型類人猿は、そのうちヒトを抜いた、ボノボ、チンパンジー、オランウータン、ゴリラの4種です。

次に各大型類人猿について、概要を見ていきましょう。なお、以下に掲載するYouTube動画には、人間の支配下に置かれている大型類人猿の映像もあります。 動物解放団体リブは動物を無条件に人間の支配下に置くことを許容しません。

ボノボ

ボノボは「ピグミーチンパンジー」とも呼ばれ、大型類人猿の中では一番小さく、平均身長110〜120ほどです。アフリカ大陸の中央、コンゴ川の南、コンゴ民主共和国のみに住んでいます。

ボノボの特徴は、グループのリーダーは女性が多く、穏やかで平和主義、共感的で利他的であることです。食べ物は独占せず、仲間や他の動物に分け合って一緒に食べることを好みます。[2] スキンシップなど様々な方法で争いを回避します。

絶滅の危機に瀕しており。IUCNレッドリストで、EN:絶滅危惧種に記載されています。

Youtube:1000語以上の英単語を覚え、日常的な英会話を理解できるボノボのカンジ

Part. 1 

Part. 2 

チンパンジー

チンパンジーは、ボノボよりも大きく、平均身長150cmほどです。コンゴ川の北に住んでいます。

チンパンジーの特徴は、男性を中心とするピラミッド型の社会を構成し、好戦的な側面を持ち、狩りや戦争をし、場合によっては共食いも行います。もちろん、人と同様、友好的で優しいチンパンジーもいます。ヒトとチンパンジーのDNAの違いは、1〜4%程度と考えられています。

ボノボ同様、絶滅の危機に瀕しており。IUCNレッドリストで、EN:絶滅危惧種に記載されています。

Youtube:孤独なチンパンジーと人間の友情

ゴリラ

ゴリラは、身長125〜180cm、体重は100〜270 kgにもなり、アフリカ大陸中央部の西にニシゴリラ、東にヒガシゴリラの2種が住んでいます。それぞれ2つの亜種がおり、ニシゴリラはクロスリバーゴリラとニシローランドゴリラ、ヒガシゴリラはマウンテンゴリラとヒガシローランドゴリラです。

ゴリラはほとんど菜食であり、一部昆虫を食べます。手話で人間とコミュニケーションするココが有名です。ゴリラは、他の大型類人猿と同様、笑い、悲み、家族への愛情など、豊かな感情を持っています。道具を作り、文化を持っています。

野生のニシゴリラは約316,000頭、ヒガシゴリラは約5,000頭しかおらず、IUCNレッドリストのCR:絶滅寸前 ・近絶滅種に指定されています。原因は狩猟や生息地の破壊です。

Youtube:猫が亡くなった悲しみを手話で伝えるココ

オランウータン

オランウータンは、男性は身長130cm前後で体重75kgとがっちりしていて、女性は115cm前後で37Kgほどです。スマトラ島とボルネオ島に、スマトラオランウータン、タパヌリオランウータン、ボルネオオランウータンの3種が住んでいます。

マレー語で、森の人という意味です(人:オラン(orang)、森:ウータン(hutan))。

オランウータンは森の賢人、森の賢者とも呼ばれるほど知能が高い動物の一種で、道具を使い、口笛を吹き、薬草を使って傷を治します。

オランウータン3種は全て、IUCNレッドリストのCR:絶滅寸前 ・近絶滅種に指定されています。

電動車を運転するオランウータン

すべての大型類人猿は絶滅危惧種です。

原因は、人間による狩猟、生息地の破壊、動物園等による娯楽利用等です。

動物園・水族館で起きている問題

種の保存

動物園やサーカスなど、動物を利用する娯楽施設は、大型類人猿を捕獲し、売買し、監禁し、商品として利用してきました。動物倫理や権利概念の発展や、環境・動物保護に関する意識の高まりに合わせ、動物園は「動物を絶滅から保護する、種の保存施設」であるという立ち位置に転じました。

しかしながら、動物園は大型類人猿の保存に役に立っているのでしょうか。少なくとも日本の動物園において、ゴリラとオランウータンは、数を増やすどころか減らしています。

今後、ゴリラは高齢化し、血が近くなっていきますので、国内だけで子供を産ませることは困難になってきます。動物園は、外国から輸入することを考えているでしょう。また、野生へ再導入することはほとんど不可能です。誰かの都合で子供を産まされ、輸出入させられ、家畜化させられることは、本人たちにとって良いことであるとは言えません。

[2018年時点 計 7施設21名]

[2024年時点 計 6施設21名]

[2019年5月21日に亡くなった、シャバーニ(撮影:2018/05/11]

異常行動

動物園などの監禁下では、大型類人猿は異常行動に陥ります。異常行動とは、自由を奪われ、監禁されるなどすることによって、精神的に危機的な状況が行動に現れる現象です。人間の場合、拘禁症と呼ばれ、同じ動きを繰り返す、いじめを行う、自傷するなどの異常な行動を起こします。

日本の動物園でも、大型類人猿を始め、多くの動物が異常行動に陥っています。

沖縄こどもの国 チンパンジーの食糞行動(撮影:2019/01/26 日本一周動物園水族館調査)

高知県高知市にある、わんぱーくこうちアニマルランドでは、監禁状態が長く続き精神に異常をきたしたチンパンジーに向精神薬を投与しています。

JAZA(日本動物園水族館協会)は、この”治療”を、最優秀賞として表彰しています。

狩猟

人間は、大型類人猿を狩猟し食べてきました。現代では、狩猟が違法となっていますが、密猟が後を絶たず、また害獣として密猟する場合もあり、絶滅を後押ししています。[3] [4] 

人類による狩猟(水生動物の場合は漁業)は、これまで多くの動物を殺戮し絶滅させてきました。

実験利用

これまで多くの大型類人猿が動物実験の犠牲になってきました。大型類人猿の人生を奪い、尊厳を奪い、権利を奪ってきました。世界的に、大型類人猿を実験に利用することは禁止されつつあります。

しかし日本では京都大学をはじめとして、大型類人猿を使った実験を未だ当たり前のように行っています。京都大学は、日本モンキーセンターなど自前の動物園や水族館を持ち、他の水族館とも連携して動物実験を行っています。日本の大学は、どうしても動物利権を手放したくないようです。また、動物に共感し動物の尊厳を守る立場から研究を行う日本人学者は、かなり稀です。日本の学術界は、世界に大きく遅れをとっています。

チンパンジー“初めての空” おりの中で28年生活

生息地の破壊

すべての大型類人猿が住む場所が、破壊されつつあります。中でもオランウータンとパーム油の関係は有名です。

パーム油を取るブラヤシの畑を作るために、熱帯雨林が放火され、オランウータンや多くの野生動物の住む場所が減っています。日本でも、パーム油はお菓子や加工食品など多くの食品に使われており、それらを消費することはオランウータンなどの絶滅に加担することになります。パーム油が使われていない商品や、持続可能なパーム油が使われている商品を選択することでオランウータンを守ることができます。

YouTube:森を破壊するショベルカーを止めようと戦うオランウータン

大型類人猿の権利獲得運動

動物権利運動は、すべての動物に権利を獲得することを理想とします。しかしながら、一足飛びに、すべての動物、例えば昆虫や海綿などにまで権利を獲得しようとすることは現実的ではありません。そのためまずは、同じヒト科の動物から権利獲得の端緒を開こう、という意図があります。

大型類人猿は、人間の次に最も盛んに権利獲得運動が行われている動物です。時間軸に沿って主な出来事をみていきます。

大型類人猿の権利獲得の歴史

1948 世界人権宣言:すべての人権を保障するための共通基準を宣言した

1978 動物の権利の世界宣言:国際動物権利連盟らによる宣言。ユネスコが発表した宣言ではない

1979 Animal Legal Defense Fund設立 アメリカで世界で初めての、法律や裁判を利用して動物の権利擁護を行う活動に特化した団体が設立された

1993 GAP(Great Ape Project)設立 哲学者パオラ・カヴァリエリ、ピーター・シンガーらが設立した、大型類人猿に基本的権利を獲得するためのプロジェクト

1993 大型類人猿の権利宣言 GAPによる大型類人猿の権利を求める宣言

1996 NhRP(米) 大型類人猿等に基本的権利を獲得するためのプロジェクト

1999 ニュージーランドが、動物福祉法において大型類人猿をヒト以外のヒト科(non-human hominid)と定義した。

2005 大型類人猿に関するキンシャサ宣言(Kinshasa Declaration on Great Apes):コンゴ民主共和国のキンシャサで行われた、政府間会議と大型類人猿生存パートナーシップ(GRASP)の第1回理事会で署名された、大型類人猿に関する政治声明。(原文/日本語訳)

2008 オーストリアで、チンパンジーのマシュー・ヒアスル・パンに権利を与える訴訟が提起される。申し立ては却下された。この後、アメリカやアルゼンチンなど世界各地で大型類人猿の権利を求める裁判が起こされる。

2013 欧州議会および理事会の指令により、例外はあるものの、大型類人猿に対する実験が禁止された。以降、世界各地で大型類人猿に一定の権利保護を与える法律が成立していく。

大型類人猿の権利擁護を行なっている主な団体

GAP(Great Ape Project)

GAPは大型類人猿保護の世界的リーダーです。大型類人猿に基本権を与え、国際憲章の制定を求めることを目的として、哲学者のパオラ・カヴァリエリ(Paola Cavalieri)、ピーター・シンガー(Peter Singer)によって設立されました。現在は世界13カ国に支部があります。

現在、本部はブラジルにあり、4つのチンパンジーのサンクチュアリと提携しています。

サンクチュアリとは、人間に利用されている動物園動物や家畜動物などを保護し、動物福祉が行き届いた環境で終生お世話する施設です。

(* 京都大学が九州で運営するサンクチュアリがありますが、この施設はチンパンジーを繁殖し日本各地の動物園に配布するなどしており、似て非なるものです。)

Website https://www.projetogap.org/en/

NhRP(Nonhuman Rights Project)

[概要]

大型類人猿・ゾウ・クジラ目の権利の確保を目的とした団体で、弁護士で法学者のスティーヴン・ワイズ氏によって設立されました。。

弁護士・法律専門家・法学生等からなり、訴訟・法律・教育の3つを主軸として、アメリカで活動しています。

2013年、大型類人猿のための最初の訴訟をニューヨーク州で提起しました。4名のチンパンジーのための訴訟でしたが、敗訴しています。この後、複数の訴訟を起こしています。

Website https://www.nonhumanrights.org/

スティーヴン・ワイズ氏 TEDトーク(日本語字幕有)

他にも数々の動物擁護団体や弁護士が、大型類人猿の権利の獲得、権利擁護のために活動しています。大型類人猿から動物の権利獲得運動を開始する理由は、大型類人猿はヒトの近縁種であり、ヒトの理性にも直感にも受け入れられやすいからです。

日本でも、本格的な動物の権利獲得運動は大型類人猿をはじめとする高度な意識の機能を持つ動物から始めることになるでしょう。

あなたにできること

  • 動物園に行かない、お金を落とさない
  • 大型類人猿や問題についてもっと学ぶ。YouTubeにはたくさんの動画があります。また、ジェーン・グドール氏の本を読むのもおすすめです。
  • 大型類人猿に起きている問題、彼らの素晴らしさ、保護の重要性などについて周りに伝え、大型類人猿に関心を持つ人、守る人を増やす
  • 動物園や大学、マスメディア等にに意見を伝える
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、大型類人猿はもちろん、すべての動物を守ることができます。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

[1]チンパンジー親子トリオ(父親-母親-息子)の全ゲノム配列を高精度で解明. 京都大学. 2017/11/02. https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2017-11-02, (参照 2024/07/26).

[2]Brian Hare, Suzy Kwetuenda. Bonobos voluntarily share their own food with others. Current Biology. 2009/12. https://doi.org/10.1016/j.cub.2009.12.038, (参照 2024/07/23).

[3]Barbara Fraser. Taste for gorilla and chimp meat fuels illicit trade. CIFOR-ICRAF. 2018/09/24. https://forestsnews.cifor.org/57897/taste-for-gorilla-and-chimp-meat-fuels-illicit-trade?fnl=en, (参照 2024/07.26).

[4]Ker Than. オランウータンを食用捕獲、ボルネオ島.National Geographic .  2011/11/16. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5217/, (参照 2024/07.26).

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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