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動物虐待と人間への犯罪の相関

  • 2024/11/21

動物虐待と人に対する暴力や殺害などの繋がりは、古くから指摘されていました。この繋がりを示す事例は世界各国で共通しています。また、研究やデータが示すところによれば、動物虐待と人間への犯罪の間には明確な相関が存在します。

本記事では、動物虐待がどのようにして人間への犯罪と結びつくのか、そのメカニズムや具体的な事例を紹介し、私たちがこの問題にどう向き合うべきかを考察します。動物の命を守ることが、実は人間社会を守ることにもつながるという視点を一緒に探ってみましょう。

動物虐待と犯罪の定義

動物虐待とは

「動物虐待とは、動物を不必要に苦しめる行為のことをいい、正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする積極的な行為だけでなく、必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置したり、充分な餌や水を与えないなど、いわゆるネグレクトと呼ばれる行為も含まれます。」(環境省)[1]

犯罪とは

「刑法その他の刑罰法規に規定する犯罪構成要件に該当する有責かつ違法な行為。」[2]

動物虐待から人への犯罪に至った主な事件

日本の場合

まず、動物虐待の現状ですが、日本の2022年の動物虐待検挙数は166件。逮捕・書類送検が187人でした。[3]  もちろん、この数は動物虐待のほんの一部です。

過去10年間における動物虐待半の検挙事件数の推移

日本で動物虐待を行う人が、人に対する犯罪を実行した主な事件を挙げます。

1988〜1989 子供の頃から動物虐待・殺害を繰り返していた宮崎勤が、4名人の女児を誘拐し殺害した。(東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件

1997 ネコやハトを殺害していた中学3年生の少年、通称「酒鬼薔薇聖斗」が、小学生2人を殺害、2人を負傷させた。(神戸連続児童殺傷事件

2000 動物を虐待していた17才の少年、通称「ネオむぎ茶」が、バスをハイジャックし1名を殺害、2名を負傷させた。(西鉄バスジャック事件

2001 犬や猫などの動物に火をつけて殺害するなどしていた宅間守が、小学校に侵入し小学生8人を刺殺し、小学生と教師15人に重軽傷を負わせた。(附属池田小事件

2004 動物虐待を行っていた小林薫が、小学一年生の女の子をわいせつ目的で誘拐し殺害した。(奈良市小1女児殺害事件

2011 切断したネコの首を学校に持ってきていた高校2年生の男子生徒が、ナイフのようなもので埼玉県の中学3年生女子と千葉県の小学2年生女児に切りつけた。[4] [5]

世界の場合

有名な連続殺人犯である以下をはじめ、多数の殺人犯が動物虐待を行っています。

これらは、動物虐待からエスカレートし、さらに重大な犯罪行為に及んだ例として知られています。

また、戦争などで多数の人を殺害した人々、例えば、アレキサンダー大王、皇帝ネロ、イヴァン雷帝、ルイ16世なども動物虐待を行っていたようです。

動物虐待と人への犯罪の関連性の研究

動物虐待と犯罪の関連性は、犯罪学、精神分析学、心理学、精神社会学、法獣医学などの分野で研究が進んでいます。

動物虐待の9つの動機

動物虐待の動機は  9つに分類されています。

  1. 動物をコントロールするため、あるいは動物の行動を形成するため
  2. 動物に報復するため
  3. 種または品種に対する偏見を満たすため (文化的価値観に関連する可能性あり)
  4. 他の人や動物に対して、動物を通じて暴力的で攻撃的な行動を表現するため
  5. 攻撃的なスキルを向上させるため、または暴力的な能力を他の人に印象付けるため
  6. 友人を楽しませるため
  7. 人々に報復するため
  8. 人への敵意を、動物に転嫁するため
  9. 動物に対して、特に敵対的な感情はない[6] [7]

FBIによる研究

FBIによると、以下のようなことが明らかになっています。[8]

  • ペットを飼っている家庭において、虐待を受けた女性の75%が、パートナーがペットを虐待していると報告している。
    そのうち90%以上が、子供の前で虐待している。
  • 家庭内暴力に遭った子どもは、感覚が麻痺し、暴力は対人関係の対立を解決する方法であるという信念を持つ。
    将来的に暴力の連鎖を永続させるリスクが高まる。
  • 動物虐待が起こっている家庭における、暴力被害者の大半は、虐待者が最終的に自分たちを殺害するのではないかとも心配している。
    実際に重傷または死亡するリスクが極めて高いとみなすべきである。
  • 動物虐待は、殺人、放火等の犯罪に比べ、性的虐待犯罪に繋がりやすい。
  • 動物虐待で逮捕された150人の成人男性の平均年齢は 37歳。そのうち、対人暴力で41%が逮捕され、性犯罪では18%、対人犯罪では28%と、極めて高くなっています

全米郡保安官協会による研究

全米郡保安官協会によると、以下のような関係が示されています。[9]

  • 家庭内暴力にさらされた子どもは、動物虐待する可能性が、3倍高い
  • 性的虐待を受けた子どもは、動物虐待する可能性が、5倍高い
  • 意図的に動物に危害を加える10歳以上の子供は、虐待を受けた可能性が2~3倍高い
  • 学校銃乱射事件の犯人の43%は、動物虐待の経歴がある
  • 児童虐待の調査を受けている家族の60% 、特に身体的児童虐待の調査を受けている家族の88%に、動物虐待の事例がある。身体的虐待を受けている子供の26%が、家族のペットを虐待する加害者になった
  • 成人の暴力犯罪者の1/4〜2/3人に、動物虐待の経験がある

日本でも、酒鬼薔薇聖斗、宅間守などが、虐待されていたことがわかっています。

日本の研究

日本ではじめて動物虐待と人に対する犯罪の関係に関する論文が発表されたのは2007年です。この研究で以下のことが明らかになりました。[10]

  • 一般中学生125名のうち、約40%が動物虐待を行なっていた。
  • 少年院収容者61名のうち暴力犯罪を行なっていた少年は、約80%が動物虐待を行っていた。
  • 一般中学生に比べ、暴力犯罪を行なっていた少年の動物虐待経験者は2倍であった。

精神疾患

1987年には、アメリカ精神医学会が行為障害の重大な症状に動物虐待を含めました。行為障害とは、他者への権利侵害などや反社会的行為を繰り返し行う子供に対する診断名です。動物虐待は、反社会性人格障害など精神疾患の兆候の1つとして考えられています。[7]

統計

日本では、動物虐待と人間への犯罪を抑制するための統計が不足しています。

例えば、動物虐待をおこなう男女の比率に関する研究はありません。見聞きするニュースの数からすると、暴力的な事件は男性の方が多いような印象がありますが、多頭飼育やネグレクトは女性が起こす印象があります。

動物虐待者の、社会的立場や年収等に関する統計等も無いようです。

正確な研究が待たれます。

畜産や動物実験など法的には動物虐待ではない動物虐待

動物にとっては虐待や殺害であっても、人間社会からは虐待だと認められないケースがあります。

「食用にしたり、治る見込みのない病気やけがで動物がひどく苦しんでいるときなど、正当な理由で動物を殺すことは虐待ではありません(後略)。」(環境省) [1]

英語のWikipediaの「Cruelty to animals」(動物に対する虐待)には、畜産や動物実験などが取り上げられている一方、日本語の「動物虐待」では取り上げられていません。これは、これらの問題に対する社会的意識と研究の立ち遅れを表しています。

動物の立場に立てば、畜産や動物実験は、動物の身体を侵害し、殺害する明らかな動物虐待です。動物園や水族館等、動物の娯楽利用も同様に動物虐待です。また、新たな虐待としてYoutubeなどで、食べたり他の動物に食べさせるという建前で、動物を虐待し、殺害する行為が始まっています。

と殺作業員の精神的負担や社会的抑圧、犯罪との関わりに関しても英語圏の論文や資料は豊富にありますが、日本ではほとんどありません。

人間の社会的経済的都合がどうであれ、動物の立場からすると動物虐待は動物虐待です。動物虐待が個人的な欲求であれ社会的な要請であれ、人間への心身の負担が生じ、犯罪へとつながる可能性があります。調査と研究が待たれます。

動物虐待と犯罪の連鎖を断ち切るには

世界の進展

動物虐待に関する知識や意識は、着実に進展しています。

かつては動物虐待では無いとされていた行為が、現在では動物虐待と判断されます。例えば、以下など。

  • ブラッドスポーツ(Blood Sports)(猫焼き、牛いじめ、狐潰し、闘牛、闘犬、闘鶏など)の禁止傾向
  • 犬や猫を土に埋める、川に流す、遺棄することなどの犯罪化
  • 極めて狭い空間に動物を閉じ込める動物飼育が非倫理的だと捉えられるようになった
  • 畜産や動物実験を動物虐待とする反対運動の盛り上がり

かつては、人間を殺した罪でゾウを絞首刑にすることもありましたが、今やったら世界中からとてつもない非難が押し寄せるでしょう。

動物搾取を肯定している人であっても、知らず知らずのうちに意識が変わってきています。

米国の対応

この問題に関する先進国である米国の対応や法整備を見ていきます。

1966 動物福祉法で、動物を戦わせることを目的とした関連行為、例えば購入、輸送などを禁止しました。米国では、闘犬や闘鶏は動物虐待と見做されています。

2009 動物を戦わせる行為は重罪に格上げされ違法化された。

2010 動物虐待ビデオ禁止法(the Animal Crush Video Prohibition Act)制定
動物の拷問や殺害を映した動物虐待ビデオの販売や配信を禁止しました。

2016 FBIは、動物虐待事件に関する情報を国家事件ベース報告システム(NIBRS:National Incident-Based Reporting System)に収集し始めました。動物擁護団体からの情報提供も呼びかけています。

2018 ペットと女性の安全法(PAWS:the Pet and Women Safety PAWSAct )制定
パートナーがペットと家庭内暴力の被害者に暴力をふるっている場合、被害者はペットが心配で、家に残り、心身の危険に晒されます。そのようなケースに対応するため、家庭内暴力の被害者被害者がペットと避難できる住宅を提供することができる法律です。[FBI]

2019 動物虐待・拷問防止法(PACT:the Preventing Animal Cruelty and Torture)制定

意図的なあらゆる動物虐待を禁止する連邦法です。

FBIは、動物虐待は、麻薬、マネーロンダリング、違法武器、違法賭博などの犯罪と深い繋がりがあるため治安機関の連携が必要だとしています。また、動物虐待を取り締まる捜査員へトレーニングプログラムも提供しています。

また、20州が、獣医に対して動物虐待に関する報告義務法を制定しています。[FBI]

日本の対応

環境省は、動物の虐待事例等調査報告書で動物虐待に関する情報をまとめています。

《参照》
2007(平成19年)、 2009(平成21年)、2013(平成25年)、 2018(平成30年)、 2022(平成4年

動物虐待や、動物虐待と半裁の関係に関する日本の研究や情報共有は立ち遅れています。

今後、日本でも、これらの問題に関連する情報の収集と分析を進め、警察や環境省など関係各機関や、関連する分野の研究者が、調査と研究を行い、市民に共有することは、動物の犠牲を減らすと共に、人間の犠牲を減らすために非常に重要です。

あなたにできること

  • 動物虐待を行わない。多くの人は行わないでしょうが、つなぎ飼いや炎天下での散歩など、知識がないため行ってしまっている虐待もあります。
  • 動物や動物虐待について調べる。このことにより、動物への理解と共感が育まれ、適切な関係や、動物に優しい社会を作っていくことに役立ちます。
  • 動物虐待を見かけたら通報する。日時や場所、状況等を記録し、可能であれば写真や動画を撮影し、警察に通報します。情報が正確で多いほど、捜査や裁判の役に立ちます。
  • 動物虐待問題、動物虐待と犯罪の関係に関する問題にについて周りに伝え、この問題に関心を持つ人を増やす
  • 業界やマスメディアに情報提供する。意見を伝える
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、積極的動物虐待も、間接的動物虐待(肉食や動物性衣料を着ること)も行わなくなります。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

[1] 虐待や遺棄の禁止. 環境省. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/aigo.html, (参照 2024/09/01)

[2] 精選版 日本国語大辞典. 小学館. 2016.

[3] 令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について . 警察庁. 2023/03. https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R04_nenpou.pdf, (p16、p29),(参照 2024/09/01)

[4] 「酒鬼薔薇事件」を彷彿とさせる 16歳犯人の「猫の生クビ持参」. JCASTニュース. 2011/12/07. https://www.j-cast.com/2011/12/07115622.html?p=all, (参照 2024/09/01).

[5] 埼玉の女子切りつけ容疑、高2逮捕 千葉も認める. 日本経済新聞. 2011/12/06. https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0505E_V01C11A2CC1000/, (参照 2024/09/01).

[6] Kellert, Stephen R, Felthous, Alan R. Childhood cruelty toward animals among criminals and noncriminals. 1985.

[7] C. Longobardi, L. Badenes-Ribera. The relationship between animal cruelty in children and adolescent and interpersonal violence: A systematic review. Science Direct. 2018/09/01. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S135917891730263X,(参照 2024/09/02).

[8] The Link Between Animal Cruelty and Human Violence. FBI. 2021/08/10/. https://leb.fbi.gov/articles/featured-articles/the-link-between-animal-cruelty-and-human-violence,(参照 2024/09/01).

[9] Animal Cruelty and Child Abuse. National Sheriffs’ Association. https://www.sheriffs.org/animal-cruelty-and-child-abuse.(参照 2024/09/02).[10]  谷敏昭. 青少年における動物虐待の実態―非行少年と対人暴力との関連を中心として. 精神医学 49巻7号. 2007/07. https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1405101018.

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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