花に留まっているチョウ

野生動物

昆虫採集の倫理的問題

  • 2024/11/21

昆虫採集は、子供の頃にしたことがある人が多いのではないでしょうか。

しかし、その裏には倫理的な課題が隠れています。

本記事では、昆虫の意識や痛覚についてや、昆虫採集の問題についてお伝えします。

昆虫について

こちらを向いているカマキリ

例えば、カマキリは私を見つけると、体を持ち上げ手を上げて、威嚇します。一方、蝶やバッタなどの捕食対象に対しては、忍び寄り、襲い掛かり、捕獲し、食べるという異なった行動を行います。つまり、周囲の状況を認識し、対象に対して推測と判断を行い、行動を決定しているように見えます。

しかし2024年時点では、昆虫は、脳や神経系、視覚器、嗅覚機、触覚器、化学感覚器などの感覚受容器を持っていますが、意識があるか否か、そして感覚、感情、自己認識、主観的経験などがあるか否かは確定していません。[1] [2] [3]  

昆虫のコミュニケーション

一方、昆虫が、様々な方法を使ってコミュニケーションを行っていることはわかっています。特に研究が進んでいるのがミツバチで、”ダンス”や羽ばたきの音などでコミュニケーションしていることは有名です。ミツバチは、蜜がある場所などを、”ダンス”によって仲間に教えています。ダンスとは、腹部を振ったり、円を描くように歩いたり、八の字を描くように歩くことです。羽ばたきの音によるコミュニケーションも行っています。[4]  また記憶し、学習することもできます。 [5] 

Bee Dance (Waggle Dance)

昆虫は意識を持つか

昆虫(あるいは一部の昆虫)が意識を持つことは、2012年に神経学者等が発表した「非ヒト動物の意識に関するケンブリッジ宣言」[6] [7] 、2019年にさまざまな分野の学者数百名が署名した「動物の意識に関するニューヨーク宣言」[8] [9] において示唆されています。

意識があるということは、感覚、感情、知性などを持ち、苦痛を感じ、個性を持っている可能性があります。

昆虫は痛みを感じるか

動物の権利や動物福祉にとって重要な判断基準の一つである「痛覚」に関しても、昆虫が感じているかどうかは確定していません。しかし、カナダのダルハウジー大学、心理学・神経科学部のアダモ(Shelley Anne Adamo)教授は、昆虫は侵害刺激に対して、脊椎動物と同様の反応と危害回避行動を取るため、痛覚を持っていることは疑いようがないとしています。[10]

昆虫の意識に関する論文は多数あり、意識があり、苦痛を感じることが証明されれば、昆虫に対する動物の福祉が考慮されることとなり、昆虫を使った動物実験や農薬の散布に関しての議論、さらには昆虫の権利に関する議論も活発になるでしょう。

昆虫採集の実態

虫かごと虫網

人は積極的に昆虫を殺します。日常生活においては、蚊やブヨ、家に入ってきたアリやハエ、人間にとって危険なハチやアブ、農業においては、農薬などによって大量の虫を殺します。

昆虫採集によって採集された昆虫は、虫カゴの中に監禁されると外に出ようともがきます。後に解放される昆虫もいますが、死ぬまで監禁される虫もいます。手厚くケアされる昆虫もいれば、飽きられて餓死する昆虫もいるでしょう。

殺害される昆虫もいます。

標本にするための殺害方法は以下です。

  • 注射による毒物の注入。使われる薬品は、アンモニア、蛋白質分解酵素などです。
  • 毒を入れた瓶や殺虫菅(昆虫を殺すために特別に作られた入れ物)に昆虫を入れ中毒死させる。使用される薬品は酢酸エチル、亜硫酸ガス、アンモニアなどです。
  • 餓死させる
  • 指などで圧死させるなど

遊びのために殺す人もいます。殺害方法は、踏み潰す、壁に投げつける、足や触覚をもぎ取る、引きちぎるなどです。

昆虫に限らず、休日になると、都会に住む人々が大挙して、美しい自然の中に自由に住んでいる動物を搾取しにやってきます。虫を草や花から引き離し、魚を渓流や湖から引き離し、野生動物を森や林から引き離し、捕獲し、殺戮します。

普段静かな田舎では、動物を搾取し殺すことを楽しむ存在は非常に目立ちます。動物のために心を痛める住民は、悲しい思いで見ています。

予防原則とは

こちらを向いているセミ

予防原則とは、深刻な影響や不可逆的なダメージのリスクが存在する場合、科学的な確実性が完全でないことを理由に、リスクを軽減するための費用効果の高い対策を遅らせてはならないという考え方です。

哲学教授で動物の感覚の基礎プロジェクトの主任研究員であるジョナサン・バーチ氏は、動物の感覚に対する証拠が十分でない場合でも、科学的な基準を満たした証拠があれば、保護を拡大すべきだと主張しています。[11]

昆虫採集がなぜ問題か

昆虫は私たちと姿形が大きく異なり、コミュニケーションも(今のところ)行えません。ゆえに、共感や尊厳、権利の対象とは思われておらず、自由に支配し、搾取できる対象となっています。

しかし、昆虫が意識を持つことは科学的に示唆されており、その場合、痛みや苦しみを感じる可能性があります。

その可能性がある以上、人間の娯楽のために昆虫を捕獲し、遊んだり殺したりすることは非倫理的と言わざるを得ないでしょう。

ましてや、昆虫採集をしなくても人間は生きることができます。

昆虫採集という非倫理的な遊びではなく、代わりに観察することの方が昆虫のことを学べると思います。

昆虫採集を止めるために

個人の多くは、昆虫採集を当たり前の行為であると思っており、疑問に感じることはないでしょう。社会的にも、昆虫採集はごく一般的な行為であると認識されています。

一方、中には昆虫採集に対して疑問を持ち、捕獲し監禁し殺害することに違和感を持ち、罪悪感を感じている人もいます。子供の頃からそう感じている人、ヴィーガンになってからそう感じるようになった人などです。そういう人々は、昆虫が捕獲され、殺害されることに心を痛めています。

もちろん、昆虫を守りたい人々であっても、歩いているときや車に乗っているときなどに無意識に昆虫を殺し、穀物や野菜を食べるときに間接的に昆虫を殺しています。搾取には意図して行う積極的搾取と、意図せず行う消極的搾取があり、この記事で問題としているのは前者です。後者に関しては、動物倫理と科学技術の発展によって徐々に解決されていくと予想されます。

今後、昆虫が痛みや苦しみを感じていることは遠くない未来、科学的に証明されるでしょうから、予防原則を適用し、昆虫採集等の昆虫利用はすべきでないでしょう。

動物解放団体リブの意見

動物解放団体リブは、昆虫採集や快楽や遊びのための殺害を、倫理的な理由から中止することを提唱します。収集癖や支配欲を満たすために、昆虫を捕獲・殺害すべきではないと考えます。

学校や大人による昆虫採集推奨教育も中止し、昆虫の生態や意識、倫理的扱いに関する教育に切り替えます。

昆虫に対する理解を深め、尊厳や一定の権利を考えることは、昆虫や地球環境、引いては子供に対する真の情操教育や人の権利のさらなる確立につながると考えます。

あなたにできること

木の上にいるカブトムシ
  • 昆虫採集をしない、買わない。
  • 昆虫採集推進教育を良しとせず、昆虫を保護し、守る教育を行う。このことによって、子供達に真の情操教育を行うことができます。人間以外の他者の尊厳を認め、共感し、尊重する意識を育みます。また、これは環境教育でもあります。
  • 昆虫のことをどうしても知りたければ、行動を邪魔せず、注意深く観察する。捕獲された昆虫の行動とは全く異なる、本来の昆虫の行動を観察することができます。
  • 昆虫の生態や、昆虫に起きている問題、昆虫との共存などについてさらに学ぶ
  • 昆虫採集の問題を周りに伝える
  • 教育関係者や昆虫学者、マスメディアなどに意見を伝える
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、昆虫はもちろん、すべての動物を守ることができます。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

[1] 昆虫の脳の仕組み(昆虫に脳はあるのか? 仕組みは人間とは違うのか). 株式会社一色出版. 2019.10.11. https://www.isshikipub.co.jp/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A7%A3%E3%81%8D%E6%98%8E%E3%81%8B%E3%81%99%E8%84%B3%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%95%8C/brain-insects/, (参照 2014/08/23).

[2] 立田栄光. 昆虫の感覚情報伝達機構. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/14/11/14_11_703/_pdf/-char/ja.  (参照 2024/08/22).

[3]森永敏史. 昆虫の化学感覚受容体と行動. 2015. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/46/4/46_282/_pdf, (参照 2014/08/23).

[4]August Krogh. ミツバチの言語. 日経サイエンス. 2011/11. https://www.nikkei-science.com/?p=8370, (参照 2024/08/22).

[5] 昆虫は学習したり、記憶したりできるのか? どのような方法で学び、覚えるのか?. 株式会社一色出版. 2020/02/06. https://www.isshikipub.co.jp/%e9%81%ba%e4%bc%9d%e5%ad%90%e3%81%8b%e3%82%89%e8%a7%a3%e3%81%8d%e6%98%8e%e3%81%8b%e3%81%99%e8%84%b3%e3%81%ae%e4%b8%8d%e6%80%9d%e8%ad%b0%e3%81%aa%e4%b8%96%e7%95%8c/brain-learning/#toc4, (参照 2024/08/22).

[6]The Cambridge Declaration on Consciousness. 2012/7/7. https://fcmconference.org/img/CambridgeDeclarationOnConsciousness.pdf.

[7]《資料》宣言:2012『非ヒト動物の意識に関するケンブリッジ宣言』. アニマリズム党. https://animalism.party/material-2012-the-cambridge-declaration-on-consciousness-in-non-human-animals/.

[8]The New York Declaration on Animal Consciousness. 2024/4/19. https://sites.google.com/nyu.edu/nydeclaration/declaration.

[9]《資料》宣言:2024『動物の意識に関するニューヨーク宣言』. アニマリズム党. https://animalism.party/material-2024-the-new-york-declaration-on-animal-consciousness/.

[10] Shelley Anne Adamo. Do insects feel pain? A question at the intersection of animal behaviour, philosophy and robotics. 2016/08. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003347216300513. (参照 2024/08/22).

[11]Lars Chittka. Princeton Univ Pr. 2022/7/26. The Mind of a Bee.

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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