多くの人々にとって、釣りは自然の中でリラックスする手段であり、友人や家族と楽しむアウトドアアクティビティとされています。
しかし、その裏に隠された魚たちの苦しみや、環境への影響を考える人は少ないのが現状です。
本記事では、釣りという行為が動物倫理の観点からどのような問題を孕んでいるのかを掘り下げます。
魚やタコ・エビは意識を持ち、痛みを感じる
脊椎動物である魚類はもちろん、無脊椎動物であるタコなどの軟体類や、伊勢エビなどの十脚類などは意識を持ち、痛覚などの感覚、知性や記憶力などがあることがすでに分かっています。[1] [2]
他にも、動物行動学博士ヴィクトリア・ブレイスウェイトは、哺乳類や鳥類が感覚を持つ生物であると認めるなら、魚類も同等に持つと認めるべきだ、魚は痛みを感じる、と結論づけています。[3]
↓魚に意識はあるのだろうか?
私たち人間には、魚やタコなど、水生動物の顔の表情を見分けることはできません。ゆえに、人間は一方的に、感情が無い、痛みは無いと判断してしまっています。しかしそれは非科学的であり、実際は魚や水生動物は非常に豊かなコミュニケーションをしています。
↓人間と遊ぶの楽しくてしょうがない魚
↓お気に入りのダイバーがくると急いで会いにきて、貝殻のプレゼントをくれる魚
↓荒川寛幸さんと30年以上交流を続けているコブダイの頼子(よりこ)
↓タコと人間の女性
水生動物は、世界ではすでに動物福祉の対象となっています。しかし、もちろんそれだけでは足りません。今後、動物の権利の対象となっていくでしょう。
釣りの問題
年間延べ遊漁者(趣味として水産動植物を採捕する人)数は、内水面880万〜1,340万人、海面2,270万〜3,870万人もいます。(漁業サンセス1978〜1998)[4]
総遊漁採捕量は29,000t。遊漁者1人1回当たりの採捕量は7.3kgです。[5]
これだけの人数の遊漁者が、水生動物や自然環境に与えるインパクトは、計り知れません。
釣り針の痛み
魚が痛みを感じるということは、魚の口に釣り針が刺さるという経験が、私たちの口に釣り針が刺さる体験と似ているということです。例えば、あなたが釣り針を口に引っ掛けられ、引っ張り回されていると、想像してみてください。さらに、魚と釣り針の大きさの比較からすると、かなり大きな釣り針が口の中に刺さっているということです。
その針に返しがついていたら、口の中はズタズタになるでしょうし、返しがついていなくても想像を絶する痛みを伴う怪我を負うでしょう。
釣り上げられることによる窒息
魚はエラ呼吸をしています。口から水を入れ、エラの方に出す時に毛細血管で酸素を取り込み、二酸化炭素を出すという仕組みです。魚が空気中で呼吸できない理由は、エラが乾いてしまい、酸素の吸入と二酸化炭素の排出ができなくなってしまうからです。
つまり魚が釣り上げられ空気中に出されることは、私たちに例えれば、水中に引き摺り込まれ、頭を抑え続けられることとにています。魚は水中から出されると苦しいのです。
キャッチ&リリース
キャッチ&リリースは、魚の口に針を刺し想像を絶する苦痛を与え、空気中に出すことで窒息させ、苦痛を与えています。また、2005年の研究では、キャッチ&リリースされた魚の18%が死んでいることがわかりました。[6]
キャッチ&リリースは倫理的ではありません。倫理的なのは、魚をはじめとする水生生物に苦痛を与えないこと。つまり、釣らず、食べず、自由や尊厳を尊重することです。
活け造り
日本には、魚やタコやエビを生きたまま切り裂いて、生きているままその肉体を食べるという「活け造り(いけづくり)」という文化があります。英語では、Ikizukuriと呼ばれます。
生きたまま体を切られており、当然痛みを感じています。
活け造りは、ドイツとオーストラリアでは非合法です。[7]
魚を助ける人々や組織
今後、魚に関する研究は進み、動物福祉の観点から、漁業や養殖、釣りや食べ方に対する制限が発展するでしょう。動物の権利の観点からも、魚をはじめとする水生動物を守る活動はますます盛んになるでしょう。
実務的には、動物福祉や環境問題の観点から、まずは厳しい制限を科し、次に動物倫理や権利の観点から、搾取自体を禁止していくという流れになると予想されます。
魚に釣り針を刺す人間もいれば、魚から釣り針を取って助ける人間もいます。サメたちは取って助けてくれる人の周りに集まってきます。
倫理的な理由で釣りをしない、魚をはじめとする水生動物を食べない人が増えています。
個人だけでなく、魚や水生動物の権利を獲得するために活動している組織が世界中に増えており、実際に米カリフォルニア州でタコの養殖を禁止する法律が成立するなど、水生動物擁護の活動も活発化しています。
あなたにできること
- 魚をはじめとする水生動物を釣らない、食べない。このことによって、水生動物を傷つけず、苦痛を与えないことができます。
- キャッチ&リリースもしない。キャッチ&リリースは魚に多大な苦痛を与えています。
- 釣りに対して反対の意見を表明する。日本ではまだ風当たりが強いかもしれませんが、いずれ風向きは変わります。
- 魚釣りではない娯楽を見つける。動物を傷つけない、殺さない娯楽はいくらでもあります。
- 魚釣りに関する問題をさらに学ぶ。書籍「魚は痛みを感じるか」(ヴィクトリア・ブレイスウェイト)や「魚たちの愛すべき知的生活」(ジョナサン・バルコム)は、おすすめです。魚に対する思い込みを覆してくれます。
- 魚や水生動物に起きている問題、魚や水生動物の素晴らしさ、保護の重要性などについて周りに伝え、魚や水生動物に関心を持つ人、魚や水生動物を守る人を増やす
- 業界やマスメディアに意見を伝える
- ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、魚や水生動物はもちろん、すべての動物を守ることができます。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
- 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する
動物を解放しよう。
《参照》
[1] 《資料》宣言:2012『非ヒト動物の意識に関するケンブリッジ宣言』. アニマリズム党. https://animalism.party/material-2012-the-cambridge-declaration-on-consciousness-in-non-human-animals/,(参照 2024/09/05).
[2] 《資料》宣言:2024『動物の意識に関するニューヨーク宣言』. アニマリズム党. https://animalism.party/material-2024-the-new-york-declaration-on-animal-consciousness/,(参照 2024/09/05).
[3] Victoria A. Braithwaite. 魚は痛みを感じるか?. 2012/2/2. 紀伊國屋書店.
[4] 中村智幸. 日本における海面と内水面の釣り人数および内水面の魚種別の釣り人数. J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/advpub/0/advpub_18-00050/_pdf,(参照 2024/09/05).
[5] 遊漁採捕量調査 / 確報 平成20年度遊魚採捕量調査報告書. https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00502002&tstat=000001031445&cycle=8&year=20081&month=0&tclass1=000001031446&tclass2=000001031447,(参照 2024/09/05).
[6] Aaron Bartholomew, James A. Bohnsack. A Review of Catch-and-Release Angling Mortality with Implications for No-take Reserves. 2005. https://link.springer.com/article/10.1007/s11160-005-2175-1, (参照 2024/09/08).
[7] Microtrends: Ikizukuri. The Times. 2007/06/17. https://www.thetimes.com/article/microtrends-ikizukuri-wxz29krv22s, (参照 2024/09/06).