肉食主義カーニズムとは

全体像

肉食主義(カーニズム)とは:人々に動物搾取をさせる方法

  • 2024/07/22
  • 2024/07/27

肉食主義とは、カーニズム(Carnism)の日本語訳であり、社会心理学者であるメラニー・ジョイ氏が提唱しました。(以降カーニズムと記述。)

本記事は、メラニー・ジョイ氏による「私たちはなぜ犬を愛し、豚を食べ、牛を身にまとうのか: カーニズムとは何か」(青土社. 2022/5/26)の内容を参考とし、情報をまとめています。記事内の(p.数字)はページ数を示します。

カーニズムは、私たちが無意識に侵害されていた認知に言葉を与え意識化させ、私たちを取り巻く社会システムの策略を暴き、また、学問上の新たな枠組みを与えました。

では、カーニズムについてみていきましょう。

カーニズムと個人

カーニズム

メラニー・ジョイ氏は、社会心理学の観点から、人々が動物の利用を当然とし、直接的間接的に動物搾取、暴力行為、殺害を行なっている問題を、個人の問題ではなく、信念体系と社会システムの問題であると考えました。その不可視化された信念が「カーニズム」です。

カーニズムの定義

「人々に特定の動物を食べるように条件付ける目に見えない信念体系、またはイデオロギー」(Carnism is the invisible belief system, or ideology, that conditions people to eat certain animals.)定義上は”肉食”としていますが、実際は動物搾取一般を指しています。

カーニズムを実践する人をカーニスト(carnist:肉食主義者)と呼びます。

カーニズムの働き

カーニズムは、「社会システム」「社会のマトリックス」であると同時に、人々に内面化された「思考システム」「内なるマトリックス」でもあります。

ヴィーガンは、ヴィーガニズムという特殊な信念体系に従って、ライフスタイルを選択していると思われます。
しかし、カーニストたちがまるで生得的なことであるかのように肉や魚を食べ、動物園や水族館を楽しむことも、実は内面化されたカーニズムという信念体系に従って選択させられているのです。

カーニズムの基盤は暴力

カーニズムの基盤は暴力です。動物を監禁し、実験し、殺し、その肉体を食べ、皮膚を着るという行為は、すべて暴力がなければ成り立ちません。カーニズムシステムから暴力を無くせば、システム自体が崩壊するほど暴力に依存しています。つまり非暴力不殺生は、カーニズムシステムにとって敵となります。

この社会の隅々に行き渡ったカーニズムを原因として起きている問題が動物利用問題であり、まさに動物解放団体リブが解決しようとしている問題です。

スキーマ〜私たちが動物を自動的に分類する仕組み〜

スキーマとは

スキーマには様々な定義がありますが、ここでは「判断や行動を決定する認知・信念であり、物事を分類する枠組み」とします。

食べる動物と食べない動物の分類

例えば、牛(食べる動物)と、犬(食べない動物)に生の主体としての違いはありません。両者とも、意識を持ち、感情や痛覚を持っています。また、肉の味も同様に美味しいようです。実際、ヒトも牛や犬と同様の特徴を持っています。

しかし、多くの人が、牛は食べものであり、犬(やヒト)は食べものではないと思っている原因は、動物が異なるからではなく、人のスキーマが異なるからです。

人は、スキーマによって無意識に自動的に牛と犬を分類するように条件付けられてています。

動物の肉に関する認知過程

ヴィーガンの動物の肉に関する認知過程を考えてみると、以下のようになります。

牛・犬を含むすべての動物
刺激(動物の肉)→信念/認知(動物を搾取すべきではない)→思考(生きている動物のイメージ)→感情(嫌悪感)→行動(肉食の拒絶)

カーニストの動物の肉に関する認知過程は、次のようになっていると言います。(p.26)

刺激(牛)→信念/認知(食用動物)→思考(考えない)→感情(食欲)→行動(肉を食べる)

刺激(犬)→信念/認知(非食用動物)→思考(生きている犬のイメージ)→感情(嫌悪感)→行動(肉食の拒絶) 

このように、カーニストは動物によって取る行動が変わります。ヴィーガンは動物によって取る行動は変わりません。多くのヴィーガンは、かつてはカーニストであり、カーニストのスキーマを持っていました。

動物擁護活動の観点からすると、カーニストの認知過程のうち、「信念/認知」と「思考」に介入することにより、感情を変化させ、行動を変化させること、つまりスキーマを変化させることができることがわかります。これはカーニストからヴィーガンへシフトした人々が受け入れた介入であり、経験した変化です。

カーニズムと社会システム

人々にカーニズムを信じさせ、信じさせ続けるために、”動物産業複合体”は様々な手段、認知の操作、心理的テクニックを用います。

神話〜Normal、Natural、Necessary〜

メラニー・ジョイ氏は、カーニズム、暴力と抑圧に基づく搾取システムを正当化する神話、3つのNがあると言います。(p.149)

Normal(普通):肉を食べることは、普通のことである。

Natural(自然):肉を食べることは、自然なことである。

Necessary(必要):肉を食べることは、必要なことである。

人々が動物搾取を肯定するために持ち出す主張は、これら3つのNかそれらの派生です。これら3つのNは無意識化し、代わりに思考し主張しているからです。

これら3つの主張は容易に崩されます。たった一種の動物がこれほど大量の異種動物を工場式畜産で飼育し殺して食べ、大規模に環境を破壊するということは「普通」でも「自然」ではありません。完全菜食で生きることができますので「必要」ではありません。詳しくは、ジョイ氏の本等をご参照ください。

イメージ〜肉食、菜食〜

肉食と菜食は、ジェンダーに結び付けられており、ジェンダー差別をも踏襲しています。

肉食は、有害な男らしさ、支配、暴力、殺害と結びついています。これらはいずれも、身体、精神、自己、他者、社会、環境にとって有害です。

菜食は、女らしさ、女々しさ、か弱さ、優しさと結びついています。これらは、身体、精神、自己、他者、社会、環境にとって害が少ないか、有用です。

最も強靭な動物は、ゾウやサイやカバなどの草食動物であり、肉食 = 強さの証明というイメージは間違っていることが分かります。

防衛機制〜人々に動物搾取させる方法〜

動物を利用するための条件

人に動物を利用させるには、様々な条件を用意しなければなりません。動物への共感を失わせる、相手を劣った存在だと考えさせる、動物への暴力を見せない、動物の殺害を見せない、畜産に関しては動物の姿すら見せないようにします。生まれてからずっと動物を食べてきている人は多いと思いますが、多くの人がこれまで、ただの一滴の血も見ず、動物の叫び声や涙を見たことがないのではないでしょうか。この条件を作り出すのが、防衛機制です。

防衛機制の定義

「防衛機制とは、認知を歪め、感情を失わせ、共感を無関心に変える、心の働き」(p.32)

肉食|防衛機制|共感

子供の頃は、動物を人と変わらない友達だと思っていた人もいるでしょう。ヒトやヒト以外の動物は、感情や感覚を持ち、他の動物に共感する能力を持っています。それが、成長するにつれ、いつの間にか動物を利用するようになり、利用しない人を攻撃するまでになる人がいます。動物が好きで動物関係の仕事に就いた人が、いつの間にか動物搾取を当然として行い、カーニズムシステムを守るようになってしまうという現象もあります。

人々が、動物を利用し、食べるようにさせたいという目的は、人々の「動物への共感」を失わせることで達成されます。共感を失わせるためには防衛機制を利用して「精神的麻痺」を起こさせます。

防衛機制の例

  • 動物は、痛みや苦しみを感じていない。人間よりも、感じにくい。
    → ゆえに、窒息させて殺す、麻酔なしで身体を切除する、監禁するなどをして構わない。
  • 動物は、頭が悪く愚かだ。人間は、動物よりも優れている。
    → ゆえに、人間は、動物を管理・支配し、生殺与奪を握って良い。
  • 動物は、生き物ではなく、モノだ。等

防衛機制の種類

カーニズムが行う防衛機制は、不可視性、否認、逃避、常套化、正当化、モノ化、非個体化、二分化、合理化、乖離、確証バイアスなどです。

その中で最も重要な防衛機制は、「不可視性」です。

カーニズムは不可視性を用いて人々の視線が自分たちに向いてくることを避けます。動物への暴力や殺害を徹底的に隠し、暴こうとする活動家を政治家を使って罰する法律を作ります。

不可視性は、肉食をする人々にとっても都合が良く、自らが間接的に行っていること(動物虐待や屠殺)に対して、見ることも感情的に拒否さえします。

ジョイ氏は、人々がカーニズムを直視することを拒む理由を4つ挙げています。

1. システムが要塞化されているから

2. 知るのがとても辛いことだから

3. この問題があまりにも大きすぎて、どこから手をつけてよいか分からず無力感にさいなまれるから

4. 人類としてのアイデンティティへの疑問が沸き起こるから

このうち、2番目が最も根源的で重要な理由、そして動物擁護活動を困難にする理由でしょう。1と3は活動家が悩む理由であって、カーニストとは関係ないように思えます。4は一神教圏の感覚かと思います。

「知りながらにして知らないという現象は、あらゆる暴力のイデオロギーに共通します。そしてこれこそがカーニズムの本質なのです。見ざる言わざる聞かざるの原理が、生産者と消費者の間で暗黙のうちに成り立のは、暴力のイデオロギーにはつきものです。(P.111 )

ジョイ氏が「認知の三本柱」と呼ぶ防衛機制も重要です。それは、「二分化」「モノ化」「非個性化」です。「二分化」により人間と動物は完全に分離され、食べる動物と食べない動物も分離され、「モノ化」「非個性化」により、感情や感覚を持つヒト以外の動物は、商品に成り果てます。

「カーニズムの防衛機制の唯一の目的は目撃されないこと」(p.214)。つまりカーニズムやシステムが最も恐れていることは、人々から見られることであり、自分たちが可視化されることです。

カーニズムの逆襲

ヴィーガンが増加し、カーニズムの正体が明らかになり、カーニズムをめぐる闘いは新たな局面を迎えました。

カーニズムの防衛体制は、一次防衛と二次防衛に分かれているとジョイ氏は言います。

一次防衛は、カーニズムの有効化。二次防衛はヴィーガニズムの無効化です。

一次防衛:カーニズム有効化は、防衛機制です。この新しい潮流は、ネオカーニズムと名付けられています。具体的な方法は以下の通り。

  • 思いやりのカーニズム:動物福祉を推進し人々の良心を慰めることによって、動物搾取を存続させる
  • エコカーニズム:工場畜産は否定するが、狩猟など自分の生活範囲での動物搾取を存続させる
  • バイオカーニズム:カーニズムは生態に準じていると主張し、動物搾取を存続させる

二次防衛:ヴィーガニズムの無効化は、3つの点を攻撃して行われます。

  1. イデオロギー:ヴィーガニズムは異常・不自然だ
  2. 運動:ヴィーガニズムはただの流行りだ
  3. ヴィーガン:ヴィーガンは感情的で過激で話が通じない人々だ等

ヴィーガンに対する偏見や誤解は数多くあります。これもカーニズムが作り上げたスキーマを人々が受け入れることによって起こっています。

カーニズムの出口

出口は、共感

「カーニズムの出口:カーニズム的マトリックスの裂け目」(p.205)は、共感であるとジョイ氏は言います。

共感とは、「他者の感情の理解を含めて、他者の感情を共有すること」(澤田、1998)。

動物への共感は、動物と自分がどれほど近い存在であるかを知り、腑に落とすほどに深まります。

ゆえに、カーニズムは防衛機制を駆使し、人々の共感を押さえ込もうとするのです。

動物擁護活動

ある社会活動家は、社会運動を成功させるために最も重要なことは、当事者が名前と顔を出して運動に加わることだと言っていました。つまり当事者自身の声は、共感を呼び起こし、マトリックスに裂け目を作るということです。しかし、動物擁護活動の当事者(動物)は、顔を出すことも名前を出すことも自分ではできません。それゆえに、動物擁護活動が、人以外の動物の目撃者となり、代弁者とならなければなりません。

メアリー・ジョイ氏は、個人攻撃を行う動物擁護活動を推奨していません。例えば、フェミニズムが一定程度の成功を収めたのは、個人攻撃をせず、男性優越主義や男女差別などの信念体系や、家父長制度などの社会システムをターゲットとしてきたためです。

ヴィーガニズムはフェミニズムと同様、社会正義の問題です。ヴィーガニズムの運動も個人攻撃ではなく、人間中心主義や種差別などの信念体系や、動物産業複合体が形成する社会システムをターゲットとすることを推奨しています。

最後に、動物擁護活動に重要な示唆を与えるジョイ氏の言葉を引用します。

「カーニズムの真実を知ることに抵抗するのと、反対に知りたいと望む理由が実は同じだということは、まさにパラドックスです。理由は、私たちは他者を思いやることができるからです。これが、システムのまるで精巧な迷路のような構造の下に埋め込まれている究極の真実なのです。思いやる気持ちがあるからこそ、動物への暴力から目を背けたくなり、目撃証人になることを強制されていると感じるのです。」(p.221)

まとめ

以上、肉食主義(カーニズム)についてお伝えしました。

肉を食べること、動物を利用することは疑うことのない「当たり前」だと多くの方が無意識に思っているでしょう。

しかし、結局それも信念体系のうちの一つにしかすぎず、動物利用産業が「不可視性」をはじめとする様々な方法によって防衛機制の壁を作っていることによって、認知を歪められているのです。

あなたにできること

  • 「私たちはなぜ犬を愛し、豚を食べ、牛を身にまとうのか: カーニズムとは何か」(青土社. 2022/5/26)を読んでカーニズムについて学ぶ
  • 周りに人にカーニズムを伝え、業界やマスメディアに意見を伝える
  • ヴィーガンになる
  • 周りに伝える
  • 動物擁護活動をする
  • リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

Beyond Carnism. https://carnism.org/.

Martin Gibert, Élise Desaulniers. Carnism. 2013. https://martingibert.com/wp-content/uploads/2012/08/gibert-desaulniers-2013-carnism.pdf.

Wikipedia. Melanie Joy. https://en.wikipedia.org/wiki/Melanie_Joy

Wikipedia. カーニズム. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0

Wikipedia. Carnism. https://en.wikipedia.org/wiki/Carnism

Wikipedia. 防衛機制 . https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%B2%E8%A1%9B%E6%A9%9F%E5%88%B6

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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