chinook salmon

食に使われている動物

魚の養殖の実態と問題

  • 2024/11/29

「養殖」と聞くとどのようなことがイメージされるでしょう。安い魚、回転寿司といったプラスのイメージを持つ人、中には、体に悪そう、何を食べさせているかわからないといった負のイメージを持つ人もいるかもしれません。

本記事では、養殖について概要を知るとともに、動物に起きていることやその他の問題について学びます。

養殖とは

水生動物-養殖場

養殖とは

養殖とは、水生の動物や植物(海藻)を、人為的に繁殖し販売することを目的とする水産業です。英語では、アクアカルチャー(Aquaculture)や、アクアファーミング(Aquafarming)と呼ばれます。

養殖には「完全養殖」と「蓄養」があります。「完全養殖」はすでに家畜化された水生生物に繁殖させ、生まれた子供を育成すること。「蓄養」は野生生物の子供、例えば稚魚を捕獲し育成することです。

養殖を行う場所は海、湖、河川で、生簀などを設置して行います。陸上に大きなプールを設置し行う陸上養殖もあります。

養殖の目的は主にヒトの食です。その他、栄養補助食品・化粧品・ペットフードに使われ、不可食部位部は肥料などに使われます。アコヤガイなどを利用してとる真珠は装飾品に使われます。

養殖を行っている組織

行政(宮崎県都農町

行政関係(国立研究開発法人 水産研究・教育機構(水産技術研究所、増養殖研究所などをもつ)、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター等)

学校(近畿大学、京都大学、学校法人加計学園、岡山理科大学、水産高校など)

企業(水産業(マルハニチロ、ニッスイ等)、商社(三井物産、丸紅、伊藤忠等)、ミキモト、NTT東日本、NTT西日本、佐渡シーファーム、モウイ(Mowi)など)

漁協等

[1]  

養殖産業の割合、生産額

世界

食糧農業機関(FAO) の2024年 世界漁業・養殖業白書白書によると、2022年の世界の漁業・養殖業の生産量は2億2320万トン。うち養殖業生産は1億3090万トンで、全生産量の58.6%です。

水生動物の生産量合計は1億8540万トン。うち養殖水生動物は9440万トンで、全水生動物生産の51%です。[2]

日本

2022(令和4)年の漁業・養殖業の生産量は391万6,946トン。うち、養殖業94万3,342トン(海面養殖業91万1,839トン、内水面養殖業3万1,503トン)。養殖業の占める割合は、24%です。[3]

2021(令和3)の漁業・養殖業の生産額は、1兆3,999億円。うち、養殖業5779億円(海面養殖業4,693億円、内水面養殖業1,086億円)で、養殖業の占める割合は、41%です。

なお、内水面漁業・養殖業の生産額は1,240億円であり、内水面養殖業の占める割合は、87.6%です。[4]

動物に起きている問題

水生動物-養殖場でなくなっているサケ

養殖産業は家畜産業と同様、動物や環境に多大な被害をもたらしています。

品種改変

遺伝子組換え

米国とカナダでは、キングサーモンの遺伝子をアトランティックサーモンに組み込んだ、通常の2倍の速度で成長する遺伝子組換えサーモンが養殖され、流通しています。遺伝子組換え生物に関する懸念は、養殖される動物自身にとって有害である、人体に有害である、野生のサーモンと交雑し生態系に影響を与えるなどです。日本には今の所入ってきていません。

ゲノム編集

2021年、日本で初めての「ゲノム編集された動物(性食品)」である、マダイとトラフグの販売が許可されました。すでに回転寿司等で販売されています。2023年にはヒラメの許可申請が出されています。これらの魚はすべて、京都大学と近畿大学発のスタートアップ企業であるリージョナルフィッシュ株式会社が開発しています。

2024年時点でゲノム編集された食品の中には、表示義務が無いものもあり、私たちは知らない間にゲノム編集された食品を食べている可能性があります。[5]

怪我・病気

不自然な環境・過密状態で育成されることによって、水生動物は怪我をし、組織が壊死し、伝染病・敗血症など様々な病気にかかります。ウィルス(伝染性造血器壊死症等)、細菌(α溶血性レンサ球菌症等)、寄生虫(粘液胞子虫、海シラミ、サケジラミなど)の感染が急速に広がり、野生水生動物に感染が広がることが懸念されています。[6] 

また、寄生虫の除去に、掃除魚であるベラが利用されることがありますが、養殖魚の回収過程で多くのベラが死んでおり、更なる犠牲を産んでいます。例えば、ノルウェーの養殖場では、年間5,000万匹、1日15万匹ものベラが死んでいます。 [7]

精神病

魚たちは強いストレス下にあり、闘争やいじめなどを繰り返し、お互いを傷つけ合います。養殖業者や科学者たちは、養殖魚のストレスを軽減する研究を進めています。[8] つまり、魚たちには、意識、心、感情などがあると科学的に認められているということです。

薬品・化学物質

これらの疾病を治療するために様々なワクチン や抗生物質、駆虫剤や消毒液などが使われています。魚は、注射、経口接種、全身を浸されることによって投与されます。

《参照》水産用医薬品一覧

これらの薬品が養殖魚や野生水生動物、環境にダメージを与えています。一方、人体には害がないと、政府や産業は主張しています。

餌(人間の排泄物は使われているのか)

前提として、養殖への人糞利用は、アジアでは何千年も前から行われてきたようです。[9] 

中国で、ウナギの養殖に人間の排泄物を使っているという噂を聞くことがありますが、実際に使用しているという証拠は、見つけられませんでした。

中国の養殖には「統合養殖」と呼ばれる手法があり、家畜・養蚕・養殖を連携させた「統合型養魚場」があるようです。[10]

日本の養殖では、餌として、野生の魚、人間の食物残渣、添加物などが与えられています。野生の魚とは、海から捕獲してきたカタクチイワシなどです。養殖魚1匹に対して、生涯で19匹もの魚が餌として与えられています。[11]添加物とは、抗酸化剤、抗かび剤、乳化剤、合成抗菌剤、抗生物質、着香料などです。[12]

大量死

養殖サーモンの主な生産国は、ノルウェー、カナダ、英国、チリ、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国であり生産量の92%を占めています。これらの養殖場では大量死が相次いでおり、ノルウェー、カナダ、英国では、2012年から2022年の10年間で計8億6500万匹が死亡しました。原因は、寄生虫の蔓延、ストレス、窒息、海洋熱波などであると考えられています。消費者は、このような環境で育てられ、生き抜いたサーモンを食べています。[13]

養殖産業によって殺されている動物の数

世界全体で、

魚 780億〜1710億匹(2023) [14]

ザリガニ、カニ、ロブスター 430億~750億匹

エビ、クルマエビを2100億〜5300億匹(2017) [15] 

を殺していると推定されています。数字として見ると実感が伴いませんが、その一匹一匹に、固有の意識や性格があり、心や体の苦しみがあります。

野生水生動物への影響

「養殖は、野生水生動物の生息数の減少に加担しない」、と思われがちです。しかし、実際、養殖業においては、「完全養殖」よりも「蓄養」が主流です。「蓄養」は、野生水生動物の稚魚を大量に捕獲するため、野生水生動物の減少に大きく加担し、多大なダメージを与えています。特にマグロ類のほとんどやウナギなどについては、絶滅や生態系の破壊を加速させています。

また、先にも述べましたが養殖魚や甲殻類などには、野生から捕獲してきた魚も使われており野生動物へのダメージを与えています。

環境汚染

飼料や、薬品・消毒液などの化学物質が周囲に流出することにより、水質汚染や富栄養化が起こっています。[16]

養殖業は、養殖施設の建設・運営のためにCO2を排出するとともに、マングローブ林などCO2の吸収機能を破壊し気候危機に貢献しています。[17]

人体汚染

養殖された動物を食べることに関する人体へのリスクはあるのでしょうか。行政は、人体へのリスクは低いと評価しますが 、[18]  [19]     消費者団体などは人体への影響を懸念しています。[20]

養殖業に対する動物擁護活動

養殖動物に関する動物擁護活動は、現在のところ動物福祉活動が主流のようです。

効果的利他主義(EA: Effective Altruism)コミュニティーは、養殖が盛んな国々に団体を設立し、養殖動物に対する福祉の向上を目指しています。EAコミュニティが養殖や養鶏など、苦痛を受けている動物の数が多い産業を活動対象にする理由は、効果的利他主義が最大多数の最大幸福を目指す、つまり苦痛の量的な減少を目指すためです。EAコミュニティに属する団体は、例えば、Fish Welfare Initiativeです。

2023年スペインで世界初のタコ工場養殖場をオープンする計画に対して反対の声が上がりました。この反対運動を展開したのは、スペインの動物党PACMAをはじめとする各国の動物党や、動物擁護団体です。《参照》タコを救え

動物擁護活動の世界的な発展と共に、また動物擁護活動の人的・資金的リソースが増加すると共に、動物擁護活動が対象とする動物種や動物産業も拡大してきました。

養殖動物に対する動物福祉活動はこれからさらに拡大するでしょうし、いずれ動物権利活動が拡大してくることが予想されます。

あなたにできること

  • 養殖で生産された水生動物はもちろん、すべての水生動物から生産された食品を買わない、食べない。そうすることによって、養殖水生動物や環境にダメージを与えないことができます。また、養殖水生動物による人体へのリスクの可能性を0にすることができます。
  • ヴィーガンになる。養殖水生動物、野生水生動物、そしてすべての動物を食べない、買わない、利用しないことによって、動物はもちろん、環境や地球、人間の体や心へのダメージを減らすことができます。ヴィーガンはたった一人でできる、非暴力、平和、環境、動物権利、動物解放活動です。
  • 水生動物の代替食品を食べる。例えばうなぎのような味を食べたかったら、豆腐、山芋、ノリなどを使うことによって代替できます。数多くのレシピがネットにありますので検索してみてください。
  • 養殖についてさらに学ぶ
  • 養殖によって起きていることを周りに伝え、水生動物や環境を守る人を増やす。
  • 業界やマスメディアに意見を伝える
  • 動物解放団体リブを支援する。一緒に動物権利・動物解放活動を前進させましょう。

動物を解放しよう。

《参照》

[1]

宮崎県都農町「水産業夢未来プロジェクト」試験飼育成果報告. NTT東日本. 2024/02.13. https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20240213_01.html, (参照 2024/07/19).

[2]

飯山みゆき. 2024年 世界漁業・養殖業白書. 国際農林水産業研究センター. 2024/06/25. https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240625, (参照 2024/07/19).

[3]

令和4年漁業・養殖業生産統計. 農林水産省, 2024/02/29. https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/gyogyou_seisan/gyogyou_yousyoku/r4/, (参照 2024/07/19).

[4]

(1)漁業・養殖業の国内生産の動向. 水産庁. https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r04_h/trend/1/t1_2_1.html, (参照 2024/07/19).

[5]

ゲノム編集技術応用食品に係るQ&A . 消費者庁. https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_act_190919_0011.pdf, (参照 2024/07/20).

[6]

Emily Osterloff. The problem of sea lice in salmon farms. The Natural History Museum, (参照 2024/07/20).

[7]

Every year, 50 million cleaner fish die in Norwegian fish farms. asf. https://www.asf.ca/every-year-50-million-cleaner-fish-die-in-norwegian-fish-farms-2/, (参照 2024/07/20).

[8]

Johanna Axling et al. Boldness, activity, and aggression: Insights from a large-scale study in Baltic salmon. National Library of Medicine. 2023/07/20. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10358900/, (参照 2024/07/20).

[9]

Duncan Mara , Sandy Caincross. Guidelines for the safe use of wastewater and excreta in agriculture and aquaculture. WHO. https://sswm.info/sites/default/files/reference_attachments/MARA%20and%20CAIRNCROSS%201989.%20Guidelines%20for%20the%20safe%20use%20of%20wastewater.pdf, (参照 2024/07/21).

[10]

Chen Yaowang. ANIMAL RAISING AND PLANT CULTIVATION ON AN INTEGRATED FISH FARM. FAO. https://www.fao.org/4/ac264e/AC264E11.htm, (参照 2024/07/21).

[11]

Jo Anderson. Animal Product Impact Scales: 2022 Update. Faunalytics.  2022/12/07. https://faunalytics.org/animal-product-impact-scales-2022-update/, (参照 2024/07/19).

[12]

養殖用餌料の規格. 鹿児島県水産技術開発センター. https://kagoshima.suigi.jp/ushio/book_html/ushio283/youshoku_002.htm, (参照 2024/07/21).

[13]

Chen Ly, Salmon farms are increasingly being hit by mass die-offs. New Scientist. 2024/03/07. https://www.newscientist.com/article/2421227-salmon-farms-are-increasingly-being-hit-by-mass-die-offs/, (参照 2024/07/20).

[14]

Kerri Tenniswood. Original Study By: Mood, A., Lara, E., et al. (2023) . How Many Fishes Are Slaughtered Annually?. Faunalytics. 2023/10/02. https://faunalytics.org/number-of-farmed-fish-slaughtered-yearly/, (参照 2024/07/17).

[15]

Numbers of farmed decapod crustaceans. Fishcount. 2017. https://fishcount.org.uk/fish-count-estimates-2/numbers-of-farmed-decapod-crustaceans, (参照 2024/07/17).

[16]

Claude E. Boyd. Aquaculture Effluents and Water Pollution. ResearchGate. 2011/09. https://www.researchgate.net/publication/267877126_Aquaculture_Effluents_and_Water_Pollution, (参照 2024/07/21).

[17]

Tengku Mohd Zarawie Tengku Hashim et al. Aquaculture in Mangroves. ResearchGate. 2021.010.https://www.researchgate.net/publication/355015712_Aquaculture_in_Mangroves, (参照 2024/07/21).

[18]

養殖用飼料の安全性確保対策及び水産用医薬品の適正使用について. 農林水産省. 2024/02/16. https://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/risk_comm/r5/attach/pdf/teiki_r5-2-3.pdf, (参照 2024/07/21).

[19]

5.2 Chemical hazards. FAO. https://www.fao.org/4/y4743e/y4743e0e.htm, (参照 2024/07/21).

[20]

HUMAN HEALTH RISKS. CFS. https://www.centerforfoodsafety.org/issues/312/aquaculture/human-health-risks, (参照 2024/07/21).

この記事を書いたライター

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動物解放団体リブ編集部

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