と殺場従業員の足元と豚

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屠殺場の従業員が抱える身体的・精神的苦痛について

  • 2024/11/29

私たちが日々口にする肉製品。その裏側では、動物を屠殺する過酷な労働に従事し、深刻な心身の負担を抱える人々がいます。

肉体的にも精神的にも極限の環境で働くかれらは、怪我や病気、そして心の傷と向き合いながら苦しんでいます。

この記事では、屠殺業務が従業員に与える心身への影響について掘り下げ、彼らが抱える問題を多角的に考察します。この現実を知ることで、動物搾取が人間にも影響を与える構造的な問題について、少しでも理解が深まればと思います。

身体的負担:過酷な労働がもたらす健康リスク

屠殺場では、効率性が最優先される傾向があります。これは、肉製品の需要に応じて大量生産を行う必要があるため、世界中の屠殺場で共通する特徴です。動物を短時間で次々と処理するスピード重視のシステムが採用されており、従業員には一瞬の休みも許されない厳しい作業環境が求められます。この「効率性重視」の体制は、生産性を向上させる一方で、従業員に大きな身体的負担を強いる要因にもなっています。

例えば、日本のある施設では、一日当たり2,600頭、つまり1時間に360頭もの豚を屠殺しています。[1] 米国でも、1日で数千頭の動物が処理されており、ボルトガンで牛を気絶させる作業員は約12秒ごとに1頭を処理する計算になります。[2] こうした過酷なスピードの中、労働者は繰り返しの作業や肉体的疲労に加え、怪我や病気のリスクにも直面しています。

例えば、日本の豚肉と牛肉の輸入先として1位、2位を占める米国において、屠殺場で牛をボルトガンで気絶させる役割を担う従業員は、1日で約2,500頭もの動物を処理しており、これはおよそ12秒に1頭のペースに相当します。[2]

このような環境の中、調査によると、2015年には屠殺場で働く労働者の5.4%が仕事に関連した負傷や病気を経験しており、その多くが重篤なものでした。さらに、2015年から2017年の31週間にわたり、米国の屠殺場では「重篤な」負傷として550件が報告され、そのうち270件は身体の一部を切断する必要があったケースでした。

また、深刻な急性の負傷を負わない場合でも、反復的で過酷な作業により、労働者は長期的な健康被害を受けるリスクが非常に高い状態に置かれています。たとえば、2015年のNIH(米国国立衛生研究所)のレポートでは、メリーランド州のある工場で働く労働者の76%が、少なくとも片方の手に異常な神経疾患を患っていることが明らかになりました。[3]

さらに、屠殺場のライン作業員は、さまざまな細菌感染症にかかるリスクも高く、治療が必要になるケースもあります。

このように、屠殺場での労働環境は身体に深刻な影響を与えることが非常に多いのです。

心理的負担:日常化する暴力とその影響

屠殺作業が従業員に与える影響は、身体的なものだけではありません。日々の業務で動物を殺し続けることは、従業員の精神に深刻な影響を及ぼします。暴力が日常化する環境で働くことは、作業員の精神を蝕み、罪悪感に苛まれ、悪夢やうつ病、異常な怒り、薬物乱用、加害者誘発性心的外傷後ストレス障害 (PTSD)」や自殺願望に追い込みます。[4]

ある研究では、屠殺場従業員のうつ病の有病率が全国平均の4倍であることを発見されています。[5]

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

屠殺作業に従事する従業員の一部は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含めた様々な精神疾患を発症するリスクが高いとされています。そして、薬物乱用や依存症が増加することも分かっています。[3] 仕事中に動物の恐怖や苦痛を目の当たりにすることで、強烈なストレスが蓄積し、フラッシュバックや悪夢、不眠症状を引き起こすことがあります。これらの症状は、日常生活にも悪影響を及ぼし、家庭や社会との関係が希薄になる原因にもなります。

特にPTSDの特徴的な症状として、感情の回避や無感覚状態が挙げられ、これは長期間の心理的ストレスにさらされることで起こります。この問題は、屠殺作業の厳しい環境と、従業員への心理的サポートの欠如によって深刻化しています。

PITS(加害誘発性心的外傷後ストレス障害)

屠殺場での労働と心的外傷性障害には、非常に明確な関連性があることが、限られた研究の中でも示されています。その中には、あまり知られていない障害であるPITS(加害誘発性心的外傷後ストレス障害)も含まれています。

社会学者で心理学者のレイチェル・M・マクネアは、2002年の著書『Perpetration-Induced Traumatic Stress: The Psychological Consequences of Killing』で、PITSを「被害者であればトラウマになる状況だが、本人がその状況を引き起こした場合に生じるPTSDの一種」と説明しています。この障害は、不安、パニック、うつ病、薬物やアルコール乱用、偏執症、解離症状、健忘症といった症状を引き起こす可能性があります。

マクネアは、この障害が主に処刑執行人や戦闘退役軍人、さらには第二次世界大戦中のナチスに関連すると述べていますが、屠殺場で働く従業員も同様にPITSのリスクが高い集団であると指摘しています。[6]

屠殺場で働く従業員が直面する身体的・精神的な負担は、動物搾取の裏側に潜むもう一つの悲劇です。彼らの苦痛を理解し、その現実に目を向けることは、私たちが日常的に選ぶ食の選択がもたらす影響について深く考えるきっかけとなるでしょう。

動物だけでなく人間の尊厳も傷つける産業構造を見直し、より倫理的で持続可能な選択肢を社会全体で模索していくことが必要です。この記事を通じて、動物と人間の双方が直面する問題について理解を深め、共に行動するための第一歩を踏み出していただければ幸いです。

あなたにできること

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[1]施設概要. (n.d.). かなしょく. https://www.kmca.jp/facility/

[2]Solomon, A. (2014, August 25). Working Undercover in a Slaughterhouse: An Interview with Timothy Pachirat. Medium. https://medium.com/learning-for-life/working-undercover-in-a-slaughterhouse-an-interview-with-timothy-pachirat-c6d7f37eef9c

[3]Solomon, A. (2022, January 25). For Slaughterhouse Workers, Physical Injuries Are Only the Beginning. Onlabor. https://onlabor.org/for-slaughterhouse-workers-physical-injuries-are-only-the-beginning/

[4]Confessions of a Slaughterhouse Worker. (2020, January 6). BBC. https://www.bbc.com/news/stories-50986683

[5]Slaughtering for a Living: A Hermeneutic Phenomenological Perspective on the Well-Being of Slaughterhouse Employees. National Library of Medicine. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4841092/

[6]Nagesh, A. (2017, December 31). The Harrowing Psychological Toll of Slaughterhouse Work. METRO. https://metro.co.uk/2017/12/31/how-killing-animals-everyday-leaves-slaughterhouse-workers-traumatised-7175087/

この記事を書いたライター

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動物解放団体リブ編集部

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