私は海に潜ると、水中の世界の素晴らしさ、偉大さを知り、水生動物たちと同じ地球に生きていることに感動します。
しかし、身近に感じる水生動物たちについて、私たちが知っていることはわずかです。私たち人類が魚に痛覚があることを科学的に知ったのは、なんと2003年。21世紀になってからです。
そう、魚たちは痛み・苦しみを感じているのです。
しかし、私達は年間約2兆にも上る水生動物たちを捕獲し、殺しています。その裏では様々な知られざる実態や問題が起きています。
本記事では、水生動物のうち、魚類・甲殻類・軟体動物を中心に、その生態を学び、彼らが人間から受けている被害、擁護の動き、私たちができることを見ていきます。
水生動物について
かつて、魚類や軟体類などは何も考えていないか、低レベルの思考、例えば食べることや生殖することしかできないと思われていました。しかし現在、魚は意識を持ち、知性を持ち、思考し、独自の文化を持っていることが知られています。
魚は痛みを感じる
2003年、ヴィクトリア・ブレイスウッド博士は世界で初めて、「魚には、①身体が侵害されたことを神経に伝える「侵害受容体」があること、②その侵害を痛みという感覚として認識するために必要な「意識」があること、つまり、「魚は、哺乳類や鳥類と同様に痛みを感じている」ことを証明し世界的な反響を呼びました。
また無脊椎動物の一部、特にカニ・エビなど十脚類や、イカ・タコなどの頭足類は、現時点(2024年4月)では①と②の条件を十分には満たしてはいないものの、高度な認知能力・学習能力・コミュニケーション能力、危険から逃げようとする行動などによって、いくつかの国で法的に配慮の対象になっています。[1]
タコの神経細胞の数は犬と同じ5億個
魚は脊椎動物であり、神経と脳を持っています。魚は、私たちと同様、知性や記憶を司る海馬、心を持っていることを示す扁桃体を持っています。
他にも、軟体動物のうち、例えばタコは中枢となる脳と、8本の足それぞれに小さい脳があります。その神経細胞の数は犬と同様、5億個あります。[2]
魚は対象や現状を認識し、未来を予測する論理的な推論を行います。これは一般的に4歳以上の人間が行える能力です。また、短期記憶と長期記憶も持っています。
日本の水族館で行われている魚のショーは、まさに魚の知性を示しています。
道具を駆使する魚たち
かつては道具を使えるということは人間の優越性だと考えられていました。しかし今では哺乳類、鳥類、爬虫類はもちろん、魚類、無脊椎動物も道具を使うことが分かっています。
チームワークとコミュニケーション
水生動物は、音・ジェスチャー・電気・化学物質など様々な方法でコミュニケーションをとっています。
例えば、ハタとウツボは協力して狩りをします。
ハタは獲物が岩の隙間や穴に隠れると、ウツボを呼びに行きます。頭を小刻みに揺らすジェスチャーで、獲物を追い込んだことを伝え、ウツボは一緒に出かけて行きます。獲物が隠れた場所から飛び出した場合はハタが食べ、追い詰めたらウツボが食べます。
協力するという行為は人間だけではなく、魚も行うのです。
人間と遊ぶ魚
魚は遊び、喜びます。逆に、抑うつ的になることもあります。
水産業で動物が受けている被害
漁業
漁業は、年平均7870億〜2兆3000億の魚を捕獲し、殺しています。(いずれも2007-2016)。
結果として、私たち人間は、1970年〜2012年の間に魚類を半減させ、マグロやカツオなどよく食べる魚については75%も減少させてしまいました。[3]
大型の漁船が大量の魚を引き上げ、甲板を魚が飛び跳ねている映像を見たことがある方もいるでしょう。魚たちが苦しんでいるかなどと考えられることはありませんが、実際はあの魚たち一名一名(一匹一匹)が、怪我をし、圧死し、あるいはゆっくり窒息していく苦痛を強いられています。[4]
漁業の中でも特に、底引網漁業(トロール漁業)、刺し網漁業、延縄漁、捕鯨などは、魚を始めとする水生動物や水鳥に多大な被害を与えてきました。
底引網漁は、巨大な網を海底で引きずるため、海底に暮らす動物などを根こそぎ殺してしまう上に、海底環境に壊滅的なダメージを与えます。
刺し網漁業は、目的の魚以外にもイルカやウミガメ、水鳥などを混獲し、殺しています。目的外の動物の死体は海に捨てられます。漁獲量の40%は混獲という研究もあり、大きな問題となっています。[5]
混獲とは
捕鯨は、多くの鯨類を絶滅の縁に追いやってきました。鯨類は、海洋生態系の頂点に存在し、海洋環境に多大な貢献をしています。詳しくは、IMFのレポートをまとめたページをご参照ください。
環境汚染も深刻です。漁船からの油の流出や、漁業ゴミの投棄。紛失あるいは遺棄した魚網が海を漂い続け水生動物を殺し続けるゴーストネットなど。日本中の海岸には、漁業ゴミが打ち上げられ、放置されています。
日本では、漁業に多大な補助金が投入されていることも問題の一つです。典型的な例として、北海道の漁港整備に、総事業費58億円以上、漁業組合員一人当たり2億円が当てられています。[6] [7]
養殖
世界の養殖産業は、魚を780億〜1710億匹(2023)[8]、ザリガニ、カニ、ロブスターを430億~750億匹、エビ、クルマエビを2100億〜5300億匹(2017) [9] を殺していると推定されています。
不自然な環境・過密状態で育成されることによって、水生動物は怪我をし、組織が壊死し、伝染病・敗血症など様々な病気にかかります。それを治療するために抗生物質や消毒液などが使われ環境を破壊します。また、飼料が環境に流出することによる海の富栄養化・環境改変がおこり、他の水生動物はもちろん、魚を捕食するクマやワシなどにまで被害が及んでいます。
釣り
釣りも、魚を始めとする水生動物を傷つけています。
殺して食べる釣りはもちろん、捕獲した魚を放す「キャッチ&リリース」、「ゲームフィッシング」「スポーツフィッシング」、モリ(銛)やヤスなどによる「魚突き」も同様です。
魚は、口の中に巨大な針を刺され、引き上げられます。冒頭で紹介した通り、魚は痛みを感じます。口の中に巨大な針を刺され、宙吊りにされることで、当然魚たちは激痛を感じ、苦しみます。しかし、ヒトと魚の見た目が違いすぎるため、魚が痛みを感じているか、苦しんでいるかなどは考慮されることすらないのです。また、針による怪我や人間が扱うことによって鱗や粘液が傷つき、感染症にかかるなどして死亡する魚もいます。[10]
釣られる魚は、年間470億匹。そのうち170億匹が殺され、300億匹が傷を負わされたのち、リリースされます。漁業や養殖のみならず、釣りも非倫理的な行為です。[11]
釣りによる環境汚染も問題です。漁具の破棄や、湖や川に入っていくことによる、環境へのダメージなどです。また、釣り愛好家の手によって、バスなどの魚が放流され、環境を劇的に変えてしまったことは有名です。動物園やペット業者、「動物愛好家」などが、外来生物を逃がしたり遺棄するなどして、日本の環境を変えてしまったことと同様です。
世界の水生動物保護に関する流れ
西欧を中心に、水生動物の保護の動きが高まってきています。漁業や捕鯨に対する反対活動はかねてから行われていますが、近年は十脚類や養殖に関する活動が盛んになってきています。一例を以下に挙げます。
ロブスターを生きたまま茹でることの禁止が決定
ロブスターを生きたまま茹でることは、オーストリア[12]、ニュージーランド、ノルウェー[13]、スイス[14]がすでに禁止しており、英国が禁止を検討しています。
タコの養殖場設立への反対運動
2023年現在、スペインで世界初のタコ工場養殖場をオープンする計画に関して、スペインPACMAをはじめとする各国の動物党や、動物擁護団体が反対運動を展開しています。
《参照》タコを救え https://pacma.es/actualidad/nuevo-acto-internacional-granja-pulpos/
養殖魚の福祉を向上させる取り組み
効果的利他主義コミュニティでは、養殖魚の福祉を向上させることに力を入れています。各国で組織を立ち上げ、産業に働きかけています。
《参照》Fish Welfare Initiative. https://www.fishwelfareinitiative.org/team
魚も痛みを感じます。水生動物を尊重し、侵害せず、尊厳と権利を保障しましょう。
あなたにできること
現代の日本人には、水生動物を、水産動物・海産物、海の幸などと表記するように、「水生動物は搾取対象である」という強い価値観・常識があります。
しかし、魚やタコなどの水生動物は計り知れない苦痛を感じており、極めて残酷な行為と言えます。
水生動物を傷つけないために、私達にできることがあります。
1.魚を使った食事からシフトする
寿司、焼き魚、ちくわなど、水生動物を利用した料理は、日本人に馴染み深いものです。しかし、動物の知性や痛みに関する知見が集積され、環境に対するインパクトを知った今、私たちは食べないという選択を取ることができます。
魚の味がどうしても恋しい時は、例えば「ヴィーガン うなぎ」「ヴィーガン 魚のフライ」などで検索すると、動物を傷つけずに美味しい料理をつくることができます。
2.魚で遊ばない
魚は科学的にも意識があり、痛みを感じることが証明されました。
人間には分からないかもしれませんが、魚は思ったよりも賢く、感情があり、固有の一生を送っています。
魚で遊ばないということは、利用しないということ。つまり水族館に行かない、ペットショップで買わない、釣りをしない、採取しない、実験しないなどです。
3.ヴィーガンになる
ヴィーガンとは、可能な限り動物を使わない生活をする人のこと。水生動物はもちろん、他の動物にもやさしい生き方にシフトすることができます。ヴィーガンへのシフトは、常識や食生活などを劇的に変えることであり、人によっては難しいと感じるかもしれません。栄養や人付き合いなど様々な工夫も必要になってきます。(でも、数週間~数か月で慣れます。そして、やる価値があります。)
しかし、ヴィーガンになることは動物を可能な限り利用しない人生を生きることであり、それはあなたの心や体にもポジティブな影響をもたらす、素晴らしい選択です。
4.問題を周りに伝える
この記事をシェアして、水生動物を利用することについて考えるきっかけを提供してください。
そして、マスメディアや水産業界に意見を伝え、水生動物に反対しましょう。
また、リブでは動物の生態や、利用問題を分かりやすく伝えるリーフレットをお配りしています。ぜひご活用ください。
5.問題をさらに学び、考える
魚や水生動物の問題を始め、様々な動物たちが、人間によって苦しんでいます。
しかし、その実態・問題点についてはほとんど知られていないと同時に、問題は非常に大きく複雑です。
動物を利用する既存の習慣を批判的に見直す為には、問題をさらに学び、考える必要があります。
6.リブへの寄付を通して、動物を守る活動を支援する
私達は、全ての動物が搾取されずに生きられる社会をゴールとして活動するNPO法人です。
私達は国や行政からの補助金は一切なく、動物を守りたいと願う市民による貴重なご寄付で活動をしています。ご支援があれば、動物解放に向けた動物利用問題の調査活動、啓発活動、教育事業、ヴィーガンコミュニティ事業などをさらに展開することができます。
あなたのご支援をお待ちしています。
#動物を解放しよう
《参照》
Victoria Braithwaite, 高橋洋訳. 「魚は痛みを感じるか」. 紀伊国屋書店. 2012/02/14.
Jonathan P. Balcombe. 桃井緑美子訳. 「魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行動するか」. 白揚社. 2018/10/19.
[1]
EMILY MULLIN. WIRED. 2023/12/12. https://wired.jp/membership/2023/12/12/what-do-we-owe-the-octopus/.
[2]
ダニエル・エレンビ. タコの腕には脳がある?. 沖縄科学技術大学院大学. 2020/10/29. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2020/10/29/do-octopuses-arms-have-mind-their-own.
[3]
Fishcount estimates of numbers of individuals killed in (FAO) reported fishery production. Fishcount.org.uk. https://fishcount.org.uk/studydatascreens/2016/fishcount_estimates_list.php.
[4]
Fishcount estimates of numbers of individuals killed in (FAO) reported fishery production
. Fishcount.org.uk. https://fishcount.org.uk/studydatascreens/2016/fishcount_estimates_list.php.
[5]
R.W.D. Davies. Defining and estimating global marine fisheries bycatch. Science Direct. 2009/7/4. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308597X09000050.
[6]
真田康弘. このままでは日本人の手で日本の漁業が滅びる. Wedge Online.. 2024/1/15. https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32685?layout=b
[7]
真田康弘. 「国破れても漁港あり」漁港予算確保の前にすべきこと. Wedge Online. 2023/10/3.
[8]
Kerri Tenniswood. Original Study By: Mood, A., Lara, E., et al. (2023) . How Many Fishes Are Slaughtered Annually?. Faunalytics. 2023/10/02. https://faunalytics.org/number-of-farmed-fish-slaughtered-yearly/, (参照 2024/07/17).
[9]
Numbers of farmed decapod crustaceans. Fishcout. https://fishcount.org.uk/fish-count-estimates-2/numbers-of-farmed-decapod-crustaceans, (参照 2024/07/17).
[10]
Thomas M. Steeger, 他. Bacterial Diseases and Mortality of Angler-Caught Largemouth Bass Released after Tournaments on Walter F. George Reservoir, Alabama–Georgia. 1994/5. https://afspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1577/1548-8675%281994%29014%3C0435%3ABDAMOA%3E2.3.CO%3B2.
[11]
Robert Arlinghaus. 他. Understanding the Complexity of Catch-and-Release in Recreational Fishing: An Integrative Synthesis of Global Knowledge from Historical, Ethical, Social, and Biological Perspectives. 2007/4/27. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10641260601149432.
[12]
Ministers to ban boiling lobsters alive. INDEPENDENT. 2021/7/7. https://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/boiling-lobsters-alive-animal-rights-b1879471.html.
[13]
Deliberations about the ban on boiling lobsters alive. Europian Parlament. 2021//7/19. https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/E-9-2021-003646_EN.html.
[14]
エビなどの甲殻類、生きたままゆでるのは禁止?スイスが新規制. SWI. 2018/01/12. https://www.swissinfo.ch/jpn/business/%E5%8B%95%E7%89%A9%E4%BF%9D%E8%AD%B7_%E3%82%A8%E3%83%93%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%94%B2%E6%AE%BB%E9%A1%9E-%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%81%BE%E3%82%86%E3%81%A7%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%AF%E7%A6%81%E6%AD%A2-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%8C%E6%96%B0%E8%A6%8F%E5%88%B6/43818078#:~:text=%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E9%80%A3%E9%82%A6%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%AF%EF%BC%91%EF%BC%90,%E6%9C%88%E3%81%AB%E6%96%BD%E8%A1%8C%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82&text=%E6%B4%BB%E7%85%AE%E9%BE%99%E8%99%BE%EF%BC%9F,%E7%91%9E%E5%A3%AB%E5%8F%AB%E5%81%9C%EF%BC%81