品種改良とは、植物や動物を、人為的に人間にとって有用な形質に作り変えることです。かつての品種改良である、人為選択や交配育種は当たり前のように感じますが、現代の品種改良であるクローンや遺伝子組換え、ゲノム編集には漠然とした不安を持つ人もいるのではないでしょうか。
品種改良されている側の動物たちには一体何が起こっているのでしょうか。
そして、私たちはどうするべきなのでしょうか。
この記事では、動物の品種改良について整理します。
品種改良とは
品種改良の目的は、人間にとって有用な遺伝子を持つ動植物を増殖する行為です。かつては偶然発生した突然変異遺伝子を選択し、増殖することによって、現代では人工的に突然変異遺伝子を作成し、増殖することによって行われています。
品種改良は、専門的には育種(いくしゅ)と呼ばれ、育種学という学問分野で研究されます。育種学は、植物育種学と動物育種学に分けられます。
品種改良・品種改変・品種改悪
一般的には、品種改良と呼ばれ、”良いものである”という価値観が暗示されています。しかしこれは立場によって異なります。例えば、誰かがあなたを食べることを目的として、あなたを急速に成長するように作り替えたとしたらどうでしょう。あなたは、不自然なスピードで成長し、骨は脆くなり骨折し、病気と苦痛に苛まれ、精神を病み、最後には殺されて肉を食べられます。食べる人にとっては”品種改良”ですが、あなたにとっては”品種改悪”です。これがまさに動物に起こっていることです。
しかし、品種改良によって寒さや病害虫に強い米や野菜が誕生し、私たちが恩恵を受けていることも事実です。
ですので、ここでは客観的立場を取り、”品種改変”という言葉を採用します。
品種改変はすべての生物(菌・細菌・古細菌・植物・動物等)に対して行われており、生物工学・バイオテクノロジーの一部です。
品種改変の方法 [1] [2]
人為選択
紀元前から行われている。動植物のうち人間が求める形質を持つ生物を人為的に選択し、増殖する。
交配育種
紀元前から行われている。動植物のうち人間が求める形質を持つ生物を人為的に交配・増殖させる。
例)犬や猫など伴侶動物の品種・純血種。1939年日本の国立種鶏場が生み出した365日卵を産み続ける「年間無休産鶏」など家畜動物
人為的突然変異
- 化学物質を使用して突然変異を起こさせ、人間が求める形質を持つ生物を作り出す。
- 放射線放射によって突然変異を起こさせ、人間が求める形質を持つ生物を作り出す。
人工受精・人工授精(じんこうじゅせい)
人工受精 受精とは、自然に精子と卵子が結合すること。男性から精子を採取し、女性の子宮内に挿入し、結合させる
人工授精(= 体外受精、胚移植) 授精とは、人工的に精子と卵子を結合させること。男性から精子を採取、女性から卵子を採取し、体外で結合させ、女性の子宮に挿入する。1780年から行われている。
クローン
細胞核を入れ替えるなどして、全く同じ遺伝子を持った生物を作る技術。
1891年初めてクローンで作られた動物はウニ。1970年体細胞クローンで動物(カエル)が作られた。1997年初めての哺乳類の体細胞クローン、ヒツジのドリーが作られた。その後、ウシ、マウス、ブタ、ヤギなどが作られている。日本では、人間に臓器を移植することを目的としたブタを作っている。
遺伝子組換え
遺伝子組換え(= 遺伝子工学、遺伝子操作、遺伝子改変)とは、ある生物の遺伝子に、別の生物の遺伝子を加えることによって変更を加え、人間が求める形質を導入・強化・除去する技術 [3]
遺伝子組み換えは、1865年生物学者メンデルによる遺伝の法則(メンデルの法則)の発見、1953年DNAの二重螺旋構造の発見に続き、1972年遺伝子組み換え(遺伝子工学)よるDNA分子の作成によって始まった。
遺伝子組み換え生物は、GMO(Genetically Modified Organism)、Transgenic organisms(例:Transgenic foods、Transgenic animal、Transgenic fish等)と呼ばれる。
遺伝子組み換えで作られた動物は、人に猫アレルギーを起こさせない猫、赤や緑色に光る蛍光オタマジャク、光るうさぎ、光る猫、成長が早い鮭、統合失調症を患ったマウス、人の遺伝子を持つ動物など。
ゲノム編集
ゲノム編集とは、ある生物の遺伝子を酵素を使って切断し、突然変異を起こし、人間が求める形質を持つ生物を作り出す技術。
(* 遺伝子組換えとゲノム編集の違い:遺伝子組換えは、ある生物に別の生物の遺伝子を導入する技術。ゲノム編集は、ある生物自身の遺伝子を改変する技術。)
ゲノム編集で作られた動物は、ノックアウトマウス(遺伝子を欠損させ働きを無効化されたマウス。例えば骨粗鬆症マウス・てんかんマウス・脳異常マウス、神経異常マウスなど。疾患の研究や薬品開発等に使う)、 過食部分を増やすための筋肉量増大ウシ・ブタ・タイ・ヒラメ、遺伝的去勢のブタ、角なしウシなど。[4]
品種改変を行う機関
家畜改良センター、家畜改良事業団、大学、企業などが行っています。
品種改変の問題点
動物の被害
遺伝子均一化と疾患
家畜動物に人工授精に使われる精子は、ごく少数の男性の動物から採取されたものであり、生まれる家畜動物は近縁ばかりになります。
遺伝子の均一化により、遺伝的多様性が損なわれるため、形態異常(奇形)や、病気や”害虫”に対して脆弱になります。例えば、細菌やウィルスなどによる感染症が発生した場合、急速に広範に拡大し易くなる恐れがあります。
人間中心主義
クローン・遺伝子工学・ゲノム編集のほとんどの技術は、自然界では起こり得ないことを人為的に起こします。生物や自然を人間の意のままに利用改変して良いという考え方は人間中心主義であり、生物や自然の尊厳と存在を破壊します。
動物倫理・動物の権利
動物は意識、意思・感情・感覚などを持ち、自分の生き方を自分で決めることができる生の主体です。生の主体である動物の意思を無視し遺伝子レベルで改変し、人間の利用に供することは、当然ながら、動物倫理に反し動物の権利を侵害しています。
動物にとっての品種改変
もしそれが自分だったら、品種改変されたいでしょうか。クローニングされた動物、遺伝子組換えされた動物、ゲノム編集された動物たちの体や心に何が起こっているか、私たちは知ることはできません。
決して治ることのない脳障害や統合失調症を患って生まれたいでしょうか。他人に臓器を提供するためだけに生まれたいでしょうか。
クローン羊であるドリーは、生まれつきの老化している可能性があり、5才で関節炎を発症し、6才で亡くなっています。ドリーを作るために使われた羊は6才であり、ドリーは6才で亡くなり、羊の平均寿命は10〜12才です。
動物にとっての品種改変とは、「品種改悪」に他なりません。
環境や人間への被害
環境破壊
遺伝子改変された動物は病気に対して脆弱になるため、抗生剤をはじめとする薬物や、消毒薬などの化学薬品が大量に使われます。それらが尿・糞・排水を通して環境に流出し、土壌汚染、地下水汚染、海洋汚染、大気汚染を発生させます。また、抗生剤の大量投与が、薬剤耐性菌を発生させ問題となっています。[5]
遺伝子組換え生物の環境への影響
遺伝子組み換え生物(GMO)が自然界に侵入することによって、在来種との交雑・遺伝子汚染、在来種の殺害、生物多様性の減少、在来種の絶滅、有害物質の生産が生じる恐れがあります。[6]
健康
厚生労働省によると遺伝子組み換え食品の安全性は確認されており、食べ続けても問題ないとされています。[7]アメリカ、中国、日本等では、遺伝子組み換え食品や飼料が普及しています。
一方、EU加盟国の多くは遺伝子組み換え作物の栽培に反対しており、2023年時点でスペインとポルトガルのみが栽培しています。[8]
欧州委員会で72議席を占める会派である緑の党/欧州自由連盟(Greens/EFA)が、遺伝子組み換え作物を拒否する主な理由は、
①遺伝子組み換え作物が人間や家畜に健康被害をもたらす可能性を否定できない
②遺伝子組み換え作物を育てるために必要な農薬(グリホサート等)が健康被害を起こしている
③遺伝子組み換え作物はアレルギーを起こすリスクがある
④遺伝子組み換え作物は、健康、土壌、生物多様性等にとって必要ないし、安価でもない
⑤遺伝子組み換え作物がなくても、すべての人にとって十分な良質の食料を生産できる
⑥多国籍アグリビジネス企業によって、地域の農業の管理権が奪われることにつながる[9]
あなたにできること
- 品種改変された動物を購入・利用しない
- 品種改変に反対の意を表す
- オーガニック食品・製品を購入する
- 品種改変に関する問題をさらに学ぶ
- 業界やマスメディアに意見を伝える
- ヴィーガンになる
- 動物擁護団体を支援し、動物を守る活動を推進する
動物を解放しよう。
《参照》
[1]遺伝学年表. National Institute of Genetics. https://www.nig.ac.jp/museum/history13.html, (参照 2024/07/14).
[2]さまざまな品種改良の方法. Bio-Station. https://bio-sta.jp/beginner/method/, (参照 2024/07/14).
[3]第3章 遺伝子工学の技術. 生命科学系データベースアーカイブ. NBDC. https://dbarchive.biosciencedbc.jp/archive/diam_safety_literature/LATEST/document/077/077-f003.html, (参照 2024/07/14).
[4]立川雅司 et al. ゲノム編集技術の動物応用をめぐる社会的課題. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/26/4/26_283/_pdf, (参照 2024/07/15).
[5]抗生物質の使用と薬剤耐性菌の発生について. 農林水産省 消費・安全局. https://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/risk_comm/r_kekka_iyaku/h151110/pdf/031110_giji.pdf, (参照 2024/07/14).
[6]道越祐一, 松田裕之. 遺伝子組換え生物に対する生態リスク評価の現状と課題. 日本生態学会誌 66:309 – 318. 2016. https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/66/2/66_309/_pdf, (参照 2024/07/14).
[7]遺伝子組換えとはなんですか?. 厚生労働省医薬食品局食品安全部. https://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/h22-00.pdf, (参照 2024/07/15).
[8]EU(欧州連合). バイテク情報普及会. 2024/03/29. https://cbijapan.com/about_legislation/legislation_w/eu/, (参照 2024/07/15).
[9]JOANNA SPRACKETT. WHY WE OBJECTED TO GMOS IN THE EU – 36 TIMES!. 2019/03/27. https://www.greens-efa.eu/en/article/news/why-we-objected-to-gmos-in-the-eu-36-times, (参照 2024/07/15).