屠殺場へのトラックの中の豚

食に使われている動物

日本における動物の屠殺と動物・人間への被害について

  • 2024/11/27

ヒトは毎日、膨大な数の、ヒト以外の動物を殺しています。

世界では、陸生動物だけで300億頭、水生動物は1〜3兆もの動物を殺しています。

日本では、牛約108万7545頭、豚1657万7133頭、馬約1万1198頭 [1] 、ニワトリ8億2170万5000羽 [2] を殺しています(R4/2022)。

私たちは人類史上、最も多くの動物を産ませ、最も多くの動物を殺している異常な時代に生きています。

毎日毎日、大量の血が流され、悲鳴や叫び声が上がっていますが、一般的な日常を生きている私たちは、場合によっては一生見ることも聞くこともありません。それほど、屠殺は隠されています。

「すべての屠殺場がガラス張りだったら、すべての人々はベジタリアンになるだろう」とポール・マッカートニーは言いました。

では、屠殺について少し学んでみましょう。

※「屠殺」という単語について
「屠殺」という言葉は食肉産業従事者への差別用語とされ、近年では「食肉処理場」などに言い換えられています。しかし、その言い換えは動物利用の実態をカモフラージュしてしまうため、今回の記事では「屠殺」という言葉を使います。しかし、私たちは部落差別や、産業従事者への差別に反対しています。種差別や動物利用の実態を明らかにする目的でこの記事を書いています。

動物ごとの屠殺の方法と手順

動物の殺害は、殺す動物や法律などによって様々に言い換えられます。

動物産業は、消費者に対して、可能な限り、動物を殺すという事実と生々しさを感じさせたくないでしょう。

一例を挙げますと、家畜哺乳類を殺すことを「屠殺」、家禽を殺すことを「と鳥」、野生動物を殺害することを「捕殺」、存在すること自体が人間にとって不都合な動物(感染症に罹患した動物・農作物を食べる動物・犬猫など余剰愛護動物など)を殺すことを「殺処分」と言い換えます。

以下に屠殺に関する法律、方法や屠殺される場所について記述します。[3]

牛・豚・馬等の屠殺方法と手順

屠殺場で横たわる牛

哺乳類の家畜動物を屠殺する手順の一例は、以下の通りです。

1.移送(移送の前は、水や食べ物が与えられず絶食させられます。極度の心身への負担により移送中に死亡してしまうこともあります)

2.係留(屠殺場に入ると体を回転させることができないほど狭い通路に押し込まれます。鼻の真ん中に紐を通され、紐は頭上のコンベアに繋がれ動き続けるため、鼻の痛みによって、前に進まざるを得ません)

3.保定(通路の行き着く先は鉄の箱であり、牛は身動きを封じられます)

4.スタニング(Stunning)・ノッキング(Knocking):気絶させること
牛の場合
鉄の箱の上部は開いており、人間の作業員が屠畜銃で気絶させます。屠畜銃(キャプティブボルト)とは火薬や空気圧を使い、弾丸やボルトを牛の脳に撃ち込む銃です。屠殺されるとき、大人しく殺される牛もいれば、怯え暴れる牛、恐怖と不安で涙を流して泣く牛もいます。
豚の場合
電気スタンニング(電気スタンナーを頭に押し当て電気を流し気絶させる)と、ガススタンニング(CO2などのガスによって窒息させる)が行われています。ガススタンニングは、”麻酔”するという言葉が使われていますが、実際は窒息による気絶のため、ブタたちはもがき苦しみます。《参照

5.ステッキング(Sticking:刺殺 脳に通じる血管を切断する)・放血
豚の場合
ステッキングは、放血コンベアに乗せ、18cmほどのナイフで喉をV字型に切り、動脈を切ることによって行われます。

6.死亡(死にきれず、生きている場合もあります)

鶏の屠殺方法と手順

屠殺場でフックにかけられた鶏たち

1.移送屠(狭いプラスチック製のカゴにぎゅうぎゅうに押し込まれ運ばれます。屠殺前日から水も食べ物も与えられません。屠殺の際、糞便の処理に要する手間を省くためです)
真夜中に運ばれる鶏たち

2.係留(食鳥処理場では、長い間待たされ、狭さや不安、暑さや寒さに耐え、中にはカゴの中でそのまま死んでしまう鶏もいます)

3.懸鳥(けんちょう)(作業員によって捕まれ、逆さ吊りにされ、フックに足をかけられる

レールで流され、電気ショックで気絶させられる(この工程がない場合もある)

4.オートキラーと呼ばれる機械で首を切られる

5.毛を抜きやすくするため、約60℃のお湯につけられる(この時点で生きている場合もある)

6.機械で脱羽、毛抜きを行い、首、足、肛門を切除し、内臓を引き出す


また養鶏場でも、病気になったり怪我をした鶏が衰弱死したり、人間に踏み潰されて殺されたり、焼却場で生きたまま焼き殺されるなど、無惨に殺されることもあります。

野生動物

狩猟などによって野生動物が殺される、とどめを刺される方法は、銃で撃ち殺される、刃物で刺し殺される、感電死させられる、箱罠ごと生きたまま池や川などに水没させられ窒息死させられる、炭酸ガスで窒息死させられるなどです。[4]

また、愛護動物ではなく、かつ人が占有しない爬虫類、両生類、魚類と、無脊椎動物に関しては、実質どのように残虐に殺そうとも法律上の罰則は存在しません。Youtubeで面白半分や利益目的でそれら動物を殺すことに対して、動物を守る手段は存在しません。

屠殺される場所

家畜動物や狩猟鳥獣などに関しては殺害して良い場所が法令によって決まっています。

家畜動物

家畜動物を殺害する場所に関して、哺乳類を殺す場所はと畜場、鶏を殺す場所は食鳥処理場と呼ばれます。

と畜場

と畜場は、屠場・屠殺場・屠殺場・食肉センター・ミートセンター・食肉流通センターなど様々な名称が付けられます。施設名称に関しても、消費者や近隣住民が動物を殺すという事実と生々しさを感じないように言い換えられます。

と畜場は、「一般と畜場」と「簡易と畜場」に分けられます(と畜場法 第三条)。

「一般と畜場」とは、大動物または1日10頭以上の小動物を屠殺する施設です。「大動物」とは、月齢1ヶ月以上の牛と馬。「小動物」とは、豚、めん羊、山羊を指します。

「簡易と畜場」とは、1日10頭以下の小動物及び生後1年以下の牛馬を屠殺する施設です。

施設数は、

e-Stat「都道府県別と畜頭数及びと畜場数(2022)」によると、合計167施設(上位3都道府県:鹿児島19、北海道14、茨城10)

牛の個体識別情報検索サービス「と畜場リスト(2023/07)」によると、合計135施設(鹿児島15、北海道10、兵庫8)となっています

屠殺場の数は年々減っています。2018年183施設あったものが、2019年178施設、2020年176施設、2021年171施設、2022年167施設と毎年減少しています。減っている原因は定かではありませんが、人口減少、環境・健康意識の高まり、ヴィーガンの増加によると推測されます。

自家用屠殺

と畜場法第13条に規定される自家用屠殺の場合、家で殺すことができます。鶏に関しては家で屠鳥することに関する規制はありません。

野生動物

野生動物は、販売する場合と、自家消費する場合によって解体できる場所が異なります。

自家消費の場合、殺害したその場などで解体するなど、定めはありません。

販売する場合、食品衛生法による規制があり、食肉処理業と食肉販売業の許可が必要となります。農林水産省の国産ジビエ認証制度が、食肉処理施設を認証しています。認証施設一覧はこちら、認証施設の地図はこちらです。

動物が屠殺される時

ケージから顔を出している鶏

動物の意識や痛覚に関して

動物は自分が殺されることは分かっていない、何も感じていない、そう思っている人もいるかもしれません。

かつては、動物機械論のように、動物は全く痛みを感じていないと多くの人々が思っていました。

しかし、それは全く根拠がない、非科学的希望的思い込みでした。

脊椎動物や一部の無脊椎動物には、意識がある、すなわち、認知や危機を知る能力、苦痛や恐怖を感じる能力があることは科学的に(人と同様には)証明されています。つまり、屠殺場に入った動物は、血の匂い、他の動物の悲鳴、数々の機械や刃物を明確に認識しており、そのような場所に入れられた人間と同様、不安や恐怖を感じています。

屠殺の際、”人道的”な観点から、なるべく痛みを感じないように配慮されているとされますが、実際は、多くの失敗、場合によっては虐待が起きており、想像を絶する苦痛と絶望を味わっています。

もしあなたが“家畜動物”だったら

あなたは、やさしい人です。平和を好み、争いごとを避け、恋人や家族や友達と幸せに暮らしたいと思っています。しかし、あなたはある日、これまで住んでいた建物から連れ出され、トラックに乗せられます。他の人と共に、トラックに身動きが取れないほどぎゅうぎゅうに押し込まれ、風防を吹き抜けてくる雨や雪、寒風に凍えます。あなたは、どこに連れて行かれるか分からず、不安に怯えています。

着いたのは、コンクリートの無機質で巨大な建物でした。建物の脇の鉄柵の中に、大勢の者と一緒に並ばされ、ホースで無遠慮に冷たい水をかけられます。

建物の中に入れられると、中は暗く、とても嫌な匂いがします。建物の中には自然のものは一切無く、コンクリートの壁や床、鉄柵、尖って汚れた金属や鎖がそこここにぶら下がり、血しぶきを付けた白いビニールを着た人間が歩き回っています。あなたの不安は恐怖へと変わります。

後ろから、血塗られたエプロンを着た人間に電気が流れる棒で体を突き刺され、強い痛みを避けるために前に進みます。前に進むにつれ、機械の音が大きくなり、耳をつんざきます。ときどき悲鳴が聞こえます。やがて嫌な匂いは血の匂いだと気づき、心臓が高鳴り、恐怖で涙が出てきます。助けを求めても、誰もあなたの言葉を聞いてくれません。

突然行き止まりになり、後ろの扉が閉まります。頭の上には道具を持った人が立っています。恐怖が全身を覆い、あなたはパニックになり暴れて逃げようとします。

額に道具を押し付けられると、強い衝撃を受けます。横の扉が開き、あなたは床下に転がり落ちていきます。あなたは首を切られ、温かい自分の血を感じます。恐怖と苦痛と悲しみの中気を失います。

あなたは知る由もありませんが、あなたの体は切り刻まれ、自分を殺した人間たちに食べられるのです。

屠殺場の内部

屠殺による人間への被害

屠殺と差別

屠殺によって被害を受けているのは動物ばかりではありません。人間自身も大きな被害を受け、そしてそれは社会的弱者に偏っています。屠殺・畜産・皮革産業等動物産業に従事し、あるいは従事させられ、心身への様々な被害や差別を受けてきました。

日本では、仏教の影響から屠殺などの動物産業に関わる人々は穢れた存在だとされ、穢多・非人などと呼ばれました。部落と呼ばれる地域に隔離され、多大な差別を受け、それは現代にまで続いています。同様の差別はインドやネパールにも見られ、アウトカースト・不可触民と呼ばれています。

また、屠殺業者が、知的障害者・身体障害者・外国人動労者・移民・不法移民(児童含む)など、何らかのハンディキャップを持った社会的弱者を雇用する場合があります。彼らは声を上げづらく、または上げられないため、心身のストレスが大きく、危険を伴う作業に従事させられ、社会保障もないまま過重労働をさせられています。

米国では、新型コロナウィルスにより屠殺場で1,500〜1,800人が集団感染し8人が死亡したことを受けた論文が発表されたり[5]、連邦政府(国土安全保障省)がと畜場に関する不正義に対し調査するなどしています。[6]

屠殺と従業員への心身のダメージ

屠殺作業員は、様々な刃物、機械に囲まれ、コンクリートの床の上で働いています。それらは血で滑り、非常な危険を伴います。怪我や骨折など年間の負傷率が20〜36% にも上るという調査もあります。[7]  また、動物が見せる恐怖の目、哀願の目、涙、逃げようと必死になる姿を見ながら、動物を追い立て、次々屠殺すという暴力の実行を長時間にわたって行います。これらの作業は、作業員の精神を蝕み、罪悪感に苛まれ、悪夢やうつ病、異常な怒り、薬物乱用、加害者誘発性心的外傷後ストレス障害 (PTSD)」や自殺願望に追い込みます。[8]

「屠殺場雇用の心理的影響:体系的な文献レビュー(The Psychological Impact of Slaughterhouse Employment: A Systematic Literature Review)」や「生計を立てるための屠殺:屠殺場従業員の幸福に関する解釈学的現象学的観点(Slaughtering for a living: A hermeneutic phenomenological perspective on the well-being of slaughterhouse employees)」は、その凄まじさを垣間見せてくれます。

海外では屠殺場に関する調査や論文が多数存在する一方、日本における屠殺場の被雇用者や雇用環境に関する調査は見つかりませんでした。

しかし、外国人労働者が増えているのは確実であり、彼らがどういう社会的立場なのかは不明です。また、うわさレベルですが、知的障害者や身体障害者が働いているということを聞いたことがあります。政府や学術界による調査が待たれます。

あなたにできること

  • 肉や魚など、動物性食品を、食べない、買わない。動物性食品を食べることは、動物はもちろん、人間の社会的弱者に対する搾取や差別を助長することになります。
  • 自分一人が食べなくなっても何も変わらないと思うのは間違いです。食べなくなることで、確実に、傷つけられ殺される動物の数を減らすことになります。
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、動物を食べることはもちろん、着たり、娯楽利用することもなくなります。ヴィーガンになるということは、たった一人でできる、最も有効な動物保護活動の一つです。またそれは、人権や環境にとっても有効な活動です。
  • 植物性食品である、野菜、穀物、ナッツを食べる。大豆ミートなど肉の代替品もありますし、ネットで検索すれば肉を使うレシピのヴィーガンバージョンがほとんど必ずあります。それは動物にも、あなたの健康にも、環境にも良い食事です。
  • 問題をさらに学ぶ
  • 周りに伝える→リーフレット無償提供中
  • 業界やマスメディアに意見を伝える
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する

動物を解放しよう。

《参照》

[1]

畜産物流通調査 確報 令和4年畜産物流通統計, 都道府県別と畜頭数及びと畜場数. e-Stat. https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002066123, (参照 2024/06/08).

[2]

畜産物流通調査 確報 令和4年畜産物流通統計, 食鳥の処理羽数及び処理重量. e=Stat. https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002066172, (参照 2024/06/08).

[3]

日本食肉生産技術開発センター. “家畜の取扱・と畜・解体技術”. 2014.03. https://www.jamti.jp/pdf/tech10-1.pdf,(参照 2023/09/10).

[4]

箱罠で捕獲した後の止め刺しについて. イノホイ. 2021/02/01. https://inohoi.com/blogs/knowledge/210201, (参照 2024/07/16).

[5]

Delcianna J. Winders, Elan Abrell. Slaughterhouse Workers, Animals, and the Environment. National Library of Medicine. 2021/12/23. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8694297/, (参照 2024/07/16).

[6]

Julia Ainsley, Laura Strickler. Feds expand probe into migrant child labor in slaughterhouses. NBC NEWS. 2023/03/02. https://www.nbcnews.com/politics/feds-expand-probe-migrant-child-labor-slaughterhouses-rcna72930, (参照 2024/07/16).

[7]

Karen Victor, Antoni Barnard. Slaughtering for a living: A hermeneutic phenomenological perspective on the well-being of slaughterhouse employees. National Library of Medicine. 2016. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4841092/, (参照 2024/07/16).

[8]

Ashitha Nagesh. Confessions of a slaughterhouse worker. BBC. 2020/01/6. https://www.bbc.com/news/stories-50986683, (参照 2024/07/16).

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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