この記事では、前編・後編を通して動物愛護管理法の基礎を学びます。
後編はこちら
対象は、動物愛護管理法に初めて触れる人、少し活動(動物擁護活動)の経験がある人を想定して書いています。
動物愛護管理法は、全ての動物を対象としています。しかし、動物の種類や人間の利用用途によって、全く守られない動物から、罰則等によって虐待や殺害から守られる動物がおり、差がつけられています。わかりやすく言うと、犬猫はある程度守られますが、両生類、魚類、そしてすべての無脊椎動物は一切守られません。
つまり、動物愛護管理法が守る動物の対象を拡大し、動物を守るための細かいルールなどの法改正を促し、行政に法の適正な運用を求める活動をし、市民に動物愛護管理法の啓発を行うことによって、動物愛護管理法をより動物を守る法律に変えていくことができます。
これらの記事を読めば、動物愛護法に関する基礎知識を獲得でき、また、動物愛護管理法を活用した通報や告発などによって動物を守る活動、法律をより強化するためのロビー活動などに役立てることができるでしょう。
①動物愛護管理法の全体像を把握する
こちら↓のリンクをクリックすると実際の動物愛護管理法の文章が表示されます。こちらと見比べながら、把握してください。
動物愛護管理法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)(別タブで開きます。)
動物愛護管理法は、以下の通り、合計五章の本則と附則からなります。
まずは全体像を把握するために、それぞれの章と条文で簡単にどんなことが書かれているのかを紹介します。
第一章(1~4条)(全4条)
第一条〜第二条 この法律の目的と原則について。
第三条〜第四条 行政が動物愛護を普及啓発しなければならないことと動物愛護週間について書いてあります。
第二章(4~6条)(全2条)
第五条 環境大臣がしなければならないこと、
第六条 都道府県がしなければならないことが書いてあります。
第三章(7〜34条)(全28条)
第一節(第七条〜第九条) 動物の管理について、所有者、占有者、販売業者、地方公共団体がすべきこと、
第二節(第十条―第二十四条の二) 第一種動物取扱業がすべきこと、
第三節(第二十四条の二の二―第二十四条の四) 第二種動物取扱業がすべきこと、
第四節(第二十五条) 動物飼育によって周囲の環境に迷惑をかける事の規制(多頭飼育を想定)
第五節(第二十五条の二〜第三十三条)は、特定動物について
第四章(35〜39条)(全5条)
第四章の一(第三十五条―第三十七条) 都道府県の役割(犬猫の引取り、負傷動物、犬猫の繁殖制限)
第四章の二(第三十七条の二―第三十九条) 動物愛護センター・担当職員・推進員・協議会の役割
第四章の三(第三十九条の二―第三十九条の二十六) 犬猫の登録関係
第五章 雑則(40〜43条)(全4条)
動物を殺すときの方法や、動物実験などについて。
第六章 罰則(44〜50条)(全7条)
愛護動物への虐待や殺害、動物取扱業者への罰則など。動物一般への罰則は無い。
第四十四条(動物への危害への罰則)
1 愛護動物への虐待や殺害:懲役五年以下又は罰金五百万円以下
2 愛護動物への 不適切な飼育:懲役一年以下又は罰金百万円以下
3 愛護動物の遺棄:懲役一年以下又は罰金百万円以下
第四十四条の二
指定登録機関の役員や職員による秘密漏洩 懲役一年以下 罰金五十万円以下
第四十五条
特定動物 懲役六月以下 罰金百万円以下
1 特定動物の無許可飼養・保管
2 特定動物の許可を不正に取得した場合
3 特定動物に関する事項を無許可で変更した場合
第四十六条
罰金百万円以下
1 第一種動物取扱業の未登録
2 第一種動物取扱業の不正手段による登録
3 第一種動物取扱業が、都道府県知事からの命令に違反したとき。
特定動物飼養業者、都道府県知事からの命令に違反したとき。
第四十六条の二
罰金五十万円以下
周囲の環境に迷惑をかけた場合
第四十七条
罰金三十万円以下
第四十七条の二
罰金三十万円以下
第四十七条の三
罰金二十万円以下
第四十八条
1 特定動物の飼養をした法人 罰金五千万円以下
2 虐待・殺害・不正飼育をした法人 (動物への危害への罰則)
第四十九条
罰金二十万円以下
第五十条
罰金十万円以下
第一種動物取扱業者の標識不掲示
②動物愛護管理法の歴史と変更点
1973(昭和48) 年9月 制定(施行 1974)
「動物の保護及び管理に関する法律」(議員立法により制定)
1999(平成11) 年12月 改正(施行 2000/12/1)
- 「動物の愛護及び管理に関する法律」に改称
- 動物取扱業の規制
- 飼い主責任の強化
- 虐待や遺棄に関わる罰則の適用動物の拡大
- 罰則強化
2005(平成17)年6月 改正(施行 2006/6/1)
- 施行後5年ごとを目安に法改正を検討することに
- 動物取扱業の規制強化
- 定動物の飼育規制の一律化
- 実験動物への配慮
- 罰則強化
- 平成17年の法改正の内容
2012(平成24) 年9月 改正(施行 2013/9/1)
- 動物取扱業の責任と義務の強化(動物を客に見せないで販売することを禁等)
- 飼い主の責任と義務の強化(終生飼養の明文化等)
- 罰則の強化
- 行政は、原則として業者等からの犬猫の引取りを拒否できるようになった
- 平成24年の法改正の内容
2019(令和1) 年6月19日 改正(施行 2020/6/1〜2022)
- 犬・猫には、所有者情報を記録したマイクロチップ装着が義務に
- ペット業者は、生後8週齢(56日)以内の犬や猫の販売禁止
- 罰則強化:愛護動物の、殺傷は、懲役5年(以前2年)以下罰金500万円(以前200万円)以下。遺棄・虐待は、懲役1年以下、罰金100万円以下へ引き上げ
- 動物取扱業者に対する数値規制(飼養管理基準)を設定。飼育における様々な基準(例えば、出産の回数やケージの大きさなど)を数値によって明確に設けることによって、違反等の判断基準が明確になる。
《参照》動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針 - 令和元年の法改正の内容
2025 6月 改正予定
《参照》
動物愛護管理法. 環境省. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/index.html.
《参照》
資料1 対象動物種の範囲. 環境省. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/arikata/h16_02/mat01.pdf.
③日本の動物法と対象動物
青色の枠に属する動物=全ての動物
日本の動物保護に関連する主要な法律は、動物愛護管理法です。動物愛護管理法は、上記の図、青枠で囲まれた範囲の通り全ての動物を対象としています。
オレンジの枠に属する動物=実際は守られていない
しかしながら、ヒトが占有する脊椎動物のうち両生類・魚類、野生動物のうち爬虫類・両生類・魚類、そして無脊椎動物の全てについては、虐待や殺害など人間からどのような扱いをされても罰則が無いため、実際は守られていません。ただし、人に占有されている場合は、所有物を破壊したとする器物損壊罪や、盗んだとする窃盗罪などで、当該犯人は罰せられることがあります。
緑色の枠に属する動物=「愛護動物」
これらは「愛護動物」と呼ばれ、危害を加えた場合、危害を加えた人間は罰せられます。犬や猫などは特別に守られています。愛護動物は、動物愛護管理法 第六章 第四十四条4項に規定されています。愛護動物とは、人に飼われている、哺乳類・鳥類・爬虫類に属する動物。飼い主の有無にかかわらず全ての牛・馬・豚・めん羊・山羊・犬・猫・いえうさぎ・鶏・いえばと・あひるです。
赤色の枠に属する動物=「狩猟動物」
「狩猟動物」と呼ばれ、鳥獣保護管理法上の狩猟の対象となっています。野良犬や野良猫も、狩猟対象となっており、対象から外すことを求める運動があります。
例外:特定動物
上記の図では示していませんが、人間にとって特に危険な動物は、「特定動物」に指定され、飼養や管理には許可が必要です。特定動物に関する規定は、動物愛護管理法 第五節 第二十五条の二〜第三十三条にあります。特定動物リスト。
例外:外来動物
アライグマ、キョン、カナダガン、カミツキガメ、ウシガエル、ブラックバスなど、外来動物に関しては、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)に規定があります。外来生物のうち、人間や環境に被害を及ぼす恐れのある動物は、特定外来生物と呼ばれます。特定外来生物等一覧
ここまでで、動物愛護管理法の全体像をご紹介しました。
実際の法律文と照らし合わせながら理解を深めていただけたらと思います。
後編では、動物愛護管理法の問題点と改善法についてご紹介します。
後編はこちら
《資料》
動物愛護管理法関連法令
- 動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)
- 1995 動物の殺処分方法に関する指針
- 2002 家庭動物等の飼養及び保管に関する基準
- 2004 展示動物の飼養及び保管に関する基準
- 2006 動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(動物愛護管理基本指針)
- 2006 動物の愛護及び管理に関する法律施行規則
- 2006 特定動物の飼養又は保管の方法の細目
- 2006 動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置
- 2006 犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について
- 2022 動物虐待等に関する対応ガイドライン
- その他、パンフレット・報告書等
- 環境省.“資料1 対象動物種の範囲”.