なぜ私たちは歴史を知る必要があるのでしょうか。学校の勉強のように年号を覚えるためでしょうか。それはつまらないですね。リブでは歴史を知る重要性を以下のように考えています。
一つは、動物利用とそれに対する動物擁護の歴史の大きな流れを把握し、その流れの先端に自分は立っていると意識すること。このことによって、例えば活動家の方でしたら、今自分がどのフェーズにいて何をするべきか、客観的に自覚できるようになり、感情やストレスの影響を抑えられるようになります。
もう一つは、海外の動向を見れば、今後の日本の未来を予測できること。日本の動物に関する意識や動物擁護活動は30年遅れていると言われますが、逆に言えば、30年先までの未来が同じ地球上にすでにあるということです。
例えば、海外ですでに展開されている動物製品の代替品の開発やビジネスの立ち上げのヒントを得たり、海外の活動の歴史から、効果的な活動と逆効果の活動を学び、効果的な動物擁護活動に活かすことなどができます。
また、誰かと議論する際や誰かに質問された際、歴史に裏打ちされた回答は説得力を持つため、役に立つでしょう。
ここでは、動物利用の歴史と動物擁護活動の歴史、そして、日本の歴史と海外の歴史を並べます。私たちと一緒に、動物と人間の関わりの大きな歴史の流れを旅しましょう。
12000年前〜3000年前
この歴史の旅を12,000年前から始めましょう。諸説ありますが、人間は12,000年前に定住し始め、農耕を開始しました。ちょうどその頃、オオカミが人間に飼い慣らされ、家畜化され、犬となったと言われています。犬は、外敵から人間を守り、狩りを助け、人間の定住に大きな役割を果たしました。(*10万年前にはすでに家畜化されていたとする説など諸説あります)
次に家畜化されたのはヤギ・ヒツジ・ブタで、10,000年前前後。以降、牛、ミツバチ、にわとり、ラクダ、ネコ、カイコ、アヒル、コイ、金魚などが家畜化されていきます。
この後、人間の利用用途に有利な形質をもった動物が人為的に選択・繁殖され、品種改変されていきます。
紀元前にはすでに、現在の工場畜産・大量搾取の準備が整っていたと言えます。
紀元前800〜紀元後100
ここでは、動物擁護の歴史を東洋の流れと西洋の流れに分けて考えてみます。
東洋では、紀元前800年頃にアヒムサー、つまり非暴力不殺生の概念が生まれたと言われています。アヒムサーは、紀元前6世紀頃のジャイナ教や仏教の思想につながり、仏教はここ日本にも到達しました。アヒムサーの核心は、インド独立運動や現代の社会活動の理論やあり方に引き継がれています。
一方、西洋の流れは古代ギリシャから生まれました。紀元前6世紀頃、ピタゴラスは輪廻転生の考え方に基づき、動物の尊厳を守り菜食を進めました。ギリシャの哲人のなかでは、プラトンが、「肉食が始まったことによって戦争が起こった」と菜食主義を理想国家のモデルとして推奨。一方、アリストテレスは「動物は理性も権利も無く、人間の利益のために存在している」と考えました。
この当時から、動物を搾取しようとする人と、動物を守る、あるいは傷つけてはいけないとする人が、主張し合っていたことがわかります。
また、古代ギリシャには、イルカを守ろうとする文化と、イルカを搾取利用しようとする文化があり、せめぎ合っていました。日本でも同様の文化が存在し、現代のイルカ漁・捕鯨論争につながっています。
600〜
西洋では動物を搾取することが権力や権威の証でした。例えば、西洋にも大きな影響を与えた古代エジプトには、5000年前からすでに動物園の前身がありました。これは、権力者が世界中から珍しい動物を集めて、自らの権威を誇示する施設でした。
一方、日本は正反対の国で、動物を守ることが権威や高貴さの証でした。日本で動物を守る法令が作られたのはなんと、675年、天武天皇による日本初となる肉食禁止の勅令でした。牛・馬・犬・猿・鶏の肉食を禁止しており、仏教の影響によるものでした。漁業や狩猟者に対しても、檻・落穴・仕掛槍など残酷な方法を禁止しています。それ以降、13世紀頃まで、歴代の天皇はたびたび肉食禁止令や動物の殺害を禁止する勅令を発しています。
天皇以外では、豊臣秀吉の牛馬の殺害と食餌の禁止、徳川綱吉の生類憐れみの令などが発令されました。
1400〜
この頃から数々の偉人が動物を擁護する発言を行なっています。
15世紀〜16世紀に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチは、「自然や芸術を愛するがゆえにすべてのものの中に生命を見出し、動物性食品は一切食べない」「動物を殺すことが人間を殺すことと同じように犯罪とみなされる日がいずれ来るだろう」という言葉を残しているとされています。
1635年には、アイルランドで世界最初の近代的動物保護法と言われる”An Act against Plowing by the Tayle, and pulling the Wooll off living Sheep” が成立、1641年、北米で動物福祉法令「マサチューセッツ自由法典」が成立しています。
18世紀には、ジャン=ジャック・ルソーが、「動物は感覚を持つ存在であり、無益に虐待されることのない権利を有する」。ジェレミ・ベンサムが、「道徳的であろうとするならば、痛みを感じる存在に痛みを与えてはならない」という言葉を残しています。その他、リンカーン、トルストイ、バーナード・ショー、マハトマ・ガンジー、アインシュタインなどが動物を擁護する発言をしています。
1800〜
19世紀になると、英国から近代的動物擁護活動が始まり、世界に広がっていきます。
1822年、有名な「マーチン法:残酷で不適切な牛の扱いを防止する法律」が成立。この法律は開始初年で63名の被告人を告発し、147件の有罪判決を勝ち取るほど有効な法律でした。この後動物保護法はヨーロッパに広がっていきます。1824年には、現在のRSPCAの前身SPCAが設立され、世界各国に広がりやがて日本にも設立されました。そして1859年、チャールズ・ダーウィンが「種の起源」を発表。動物と人間は進化的に連続した存在であると科学的に捉える見方の端緒を開きます。1865年、夫が行なっていた動物実験に心を痛めていた妻と娘が反対運動を開始、動物実験反対運動の先駆けとなりました。1892年、ヘンリー・ソルトが「動物の権利」を出版。これらはすべて英国で起こっています。
一方日本では、1863年、オランダから搾乳技術を学び、大衆が牛乳・乳製品を利用しはじめ、1867年現在の港区から品川区のあたりに日本最初の屠殺場が設立されました。1871年、明治政府は肉食推進キャンペーンを開始し、明治天皇が初めて公然と肉を食べるようになりました。一方、それに反対した御嶽山を信仰する御嶽行者10名が皇居に乱入し、「肉食は日本人と天皇を穢す」と直訴。4名射殺、1名重傷、5名が逮捕されるという事件が起きています。
1900前半
第一次世界大戦終戦後の1923年、ついにアメリカで工場畜産が開始されます。工場畜産の最初は、肉生産のための鶏の集中飼育でした。皮肉なことに、この前年、英国で動物福祉「5つの自由」が提唱されています。1940年代には、技術進歩に伴い工場畜産が加速し、機械化や、ビタミンや抗生物質の投与などが始まります。ビタミンの発見は工場畜産に有利に働きました。
そして、第二次世界大戦中の1944年、英国ベジタリアン協会から分派した、ドナルド・ワトソンらが「ヴィーガン」という言葉を作り、ヴィーガン協会 : The Vegan Societyを創設します。ヴィーガン協会の設立日は、 11月1日。動物解放団体リブをNPO法人化したのは11月1日ですが、この日を記念して選びました。ヴィーガンという言葉が生まれてから2024年時点で80年しかたっていません。しかし、私たちを含め世界中の人々がヴィーガンという生き方を選び、お互いを知らないまま動物たちを助けるという共通の目標に向かって活発に活動していることは感慨深いものがあります。
一方日本では、1902年、英国のSPCAの影響を受けて動物虐待防止会が創設されました。1905年には害獣駆除によって日本オオカミを絶滅させました。日本の生態系に不可逆的な変化をもたらし、現在にも影響を与えています。1908年に「動物愛護」という言葉が初めて使われます。1939年、工場畜産の流れを受け、日本が世界で始めて、365日卵を産む「年間無休産鶏」を作りました。1943年第二次世界大戦中には、日本各地の動物園で戦時猛獣処分が行われ、上野動物園では27頭が薬殺や餓死により殺害されました。現在は美談のように語られることもあります。
第二次世界大戦後、世界的にも日本においても本格的な工場畜産への流れ、地球史上かつてない規模での動物の大量繁殖、大量殺害が加速していきます。
1900後半
1900年代後半は、工場畜産が世界に広がるのと平行して、動物擁護活動が世界に広がっていきます。
西欧諸国では、徐々に動物擁護団体が設立され、動物法が制定されていきました。そして、哲学者ピーター・シンガーが、1975年に「動物の解放」を出版、次いで1986年「動物の権利」を出版。これらを契機に多数の動物擁護団体が設立され、世界に広がっていきました。この頃の活動は混沌としており、ALF、SSCS、PETAなどの犯罪も辞さない過激な活動から、ALDF、GAP、NhRPなどの弁護士や学者などの知的な法律を駆使した活動まで入り乱れていました。1989年にはゲイリー L フランシオンが、シンガーの理論を批判し、動物利用を完全に放棄し、動物を解放する「廃止主義」を唱えます。
日本では、1976年、愛護動物以外の動物の擁護を行う初めての団体「エルザ自然保護の会」が設立されました。1978年には、日本で初めての動物愛護関係のデモが行われたようです。そしてエルザ設立10年後の、1986年にJAVA、1987年にARCが設立され、徐々に動物擁護活動が広がっていきます。
2000〜
2000年代に入ってから、動物擁護活動が大きな成果を挙げます。世界で起きた成果の一部を列挙しますと、サンクチュアリの増加、サーカスの廃止、動物園の閉鎖、動物実験の代替法の推進などです。また、関連する本や映画、ドキュメンタリーが制作されました。中でも大きな影響を与えたのは、2005年に公開された映画「Earthlings」(アースリングス)と2018年の「Dominion」(ドミニオン)です。
ヴィーガン人口やヴィーガン向けの商品やサービスが急拡大します。また、効果的利他主義(EA:Effective Altruism)の影響により、動物福祉に関する知見の集積と法整備が世界的に進んだことも特筆すべき成果です。
動物の権利に関しては、2000年以前からも法的に権利が一部認められる事例はありましたが、2000年以降はその流れが勢いを増しました。大型類人猿やゾウの権利擁護のための裁判が西欧で行われ、勝訴敗訴含め世間の関心と反発を高めています。
日本でも動物擁護に関心を持つ人は増えていますが、西欧ほどには増加していません。団体の設立も少なく、日本は西欧諸国に比べ、動物擁護活動や動物に関する意識は30年遅れと言われています。私たちリブの前身である、任意団体Animal LIberatorの設立が2017年。NPO法人化し、NPO法人 動物解放団体リブとなったのが2021年です。リブは日本で初めて、法的な動物権利の獲得と、動物解放をミッションとした団体です。
未来
この記事を書いているのは2024年3月です。現時点で日本の動物擁護活動の規模は小さく、伴侶動物以外の動物に対する日本の知識と意識は低いままに止まっています。
私たちは、これから何をどうしていくのか真剣に考えなければいけません。
私たちは、人類の動物搾取と動物擁護の、歴史的流れの先端に立っています。歴史から学ぶことは、未来を作っていく大きなヒントになります。
私たちが動物たちの未来を作り、私たちが動物たちと人類の歴史を記述していきましょう。
あなたにできること
動物を解放するために、あなたにできることがあります。
1.ヴィーガンになる
動物搾取を減らす最も効果的な方法の一つは、あなたの生活を変えることです。ヴィーガンになることで、動物利用から脱却し、代替商品の需要向上に貢献することができます。
2.団体に寄付をする
活動団体への財政的なサポートを提供することで、調査活動や教育プログラム、法的措置などが可能になります。あなたの寄付が動物たちの未来を変える強い助けとなります。
3.活動をする
動物保護活動に直接参加することで、現場での変化を実感できます。以下の方法で活動に参加してみましょう。
ボランティアメンバーになる
団体のボランティアメンバーとして、イベントの運営、調査活動、啓発活動などに参加しましょう。現場でのサポートが大きな力となります。
団体では常に新しいメンバーを募集しています。興味がある方は募集要項を確認し、応募してください。あなたの力が必要です。
動物解放アカデミーを受講する
動物擁護活動に関する知識を深める、仲間とのネットワークを構築するための「動物解放アカデミー」を受講しましょう。専門的な知識と仲間を獲得することで、より効果的な活動が可能になります。