horses hugging

娯楽に使われている動物

競馬の裏側で起きている残酷な現実。競馬が非倫理的なギャンブルである理由

  • 2024/11/20

JRA(日本中央競馬会)の馬券売上は世界最大です。その年間売上は3兆2340億円。一国の国家予算に匹敵するほどの巨大産業です。華やかで豪華な印象もあるかもしれません。

その一方で、競走馬は幼いころからレースに勝つためだけに酷使され、怪我や病気をすればもちろん殺処分、健康であってもレースに勝てなければ用済みとなり使い捨てにされます。

競馬産業が利益のために動物たちの命や健康を軽視している現実は、一般にはほとんど知られていません。

この記事では、競馬の華やかな表舞台の裏で何が起きているのか、馬たちがどのように扱われているのかをお伝えします。

馬について

遊ぶ馬たち

馬は、他の多くの動物と同様、意識があり、感覚、感情、意思、知性、記憶などを持っています。

2年ぶりに会った恋人同士

好きなことは、遊んだり、走ったり、地面に転がったりすることです。

子犬と遊ぶ仔馬

芝生の上で転がる馬の「リンディー」

観察力や共感能力に優れており、人の表情から、感情を推察することができます。

馬は人間の感情を読める

日本における競馬の問題構造

ピラミッドの上にいけない馬は殺される

競馬は、馬の獲得賞金と年齢によってクラス分けされています。

図のピラミッドの一番下は、生まれた仔馬たちです。2022年の場合、7,793頭がピラミッドの一番下に入れられます。

このピラミッドを登れない仔馬たちは順次弾き出されていきます。弾き出された仔馬たちの行き先は、病気や怪我の場合殺処分、健康であれば肥育牧場に送られ馬肉など屠殺され馬肉などにされます。(一部、乗馬施設や養老牧場に送られ馬術や乗馬用として娯楽利用されるものもあります。)

馬たちはレースに勝てなければ、殺される可能性がどんどん高まっていき、ある時点でピラミッドから脱落し殺されます。G1まで上がったとしても、殺される馬はいます。

競馬で走る馬たちは、文字通り、命懸けで走っているのです。

ブラックボックス

競走馬のうちどの馬がどこに行って、どのように殺されたかはブラックボックスになっています。

日本の場合、すべての牛はどこで生まれ、どこで育ち、どこで殺され、どこに売られたかが追跡できるようになっています。しかし、牛より遥かに頭数が少ない馬は、競馬での利用が終わった後、どこに運ばれ、どこでどのように殺されたかは隠されています。有名な競馬馬であっても、その最後を知ることはできず、自分が好きだった馬がどうなったか探す競馬ファンもいるほどです。

競走馬は、生産牧場で生まれ、育成牧場で初期訓練、トレーニングセンターで訓練、レースに出場、殺害されます。場合によっては、殺害される前に種馬・娯楽として利用されます。

馬への被害

鞭で叩かれる競走馬たち

競馬馬のライフサイクルに従って、馬たちが受けている被害について見ていきましょう。

半年で強制的に離乳、訓練の開始

子供は生産牧場で生まされます。子供は生後たった約6ヶ月で強制的に離乳させられ、引き離されます。自然条件下では、約9ヶ月で離乳し、1.5〜2.5歳まで一緒に過ごします。[1] 

引き離される時には母子共に悲しみ、苦しみ、お互いを呼び合います。

母親と引き離された仔馬は、生産牧場から育成牧場、そしてトレーニングセンター(通称トレセン)に送られ、調教をさせられます。[2]

筆者が弥富トレーニングセンターを訪問した時、様々な馬を見て歩きました。その中には、人間を見ると厩舎の奥に行き、怯えた目でこちらを見る仔馬もいました。その後、調教師がくるとさらに怯えていました。

調教と暴力

馬を調教する時にはムチを使い叩きます。

競馬関係者はこれをしないと馬は言うことを聞かないとし、馴致(じゅんち)という言葉を使います。これが虐待に当たるかどうかが議論になっていますが、暴力は明らかに虐待です。

また、日本では競争中において、馬の二歩以内に連続で5回以上の鞭打ちは禁止とされています。ということは、馬の二歩以内に連続5回以上叩かなければ、何回叩いても構わないということです。

馬は痛みを感じることは科学的に証明されています。[3]

馬の体は、人間の指先と同じくらい敏感です。馬は毛の一本に止まったハエも察知するほど繊細な感覚を持っています。[4]

つまり、ムチであれほどの強さで打たれ続けると当然痛いわけです。

また、ばんえい競馬では、騎手が立ち上がれなくなった馬の顔面を蹴ったことが大きな問題となりました。

怪我・病気

馬は様々な怪我をし病気にかかります。そのうち55%が運動に由来する病気、つまり競馬に由来する病気です。以下に列挙します。

裂蹄(れってい)、挫跖(ざせき)、蹄葉炎(ていようえん)、蹄叉腐爛(ていさふらん)、筋炎、屈腱炎、繋靭帯炎、関節炎、管骨骨膜炎、鶏跛(けいは)、跛行(はこう)等

心房細動、疝痛(せんつう)、喘鳴症(ぜんめいしょう)、鼻出血、フレグモーネ等 [5]

骨折

競走馬は、様々な怪我や病気と隣り合わせで生きています。特に骨折は、死に直結します。

体重約500kgもある競走馬が、60km/hものスピードで走らされています。そのため、足には何百kgもの大きな負担がかかっており、転んだ時には大きなダメージを負います。

骨折し治らないと判断されることは、予後不良(よごふりょう)と呼ばれています。[6]

馬が可哀想だから殺処分をするのだという主張がされることがありますが、可哀想であれば、走らせなければよく、時間をかけて直せば良いのです。

しかし、走らせなければ収益にならず、馬を治療するには大きなコストがかかるため、馬は利用されています。

沈黙の日曜日 サイレンススズカ 天皇賞・秋(2:10〜:この後殺された)

7月17日 障害未勝利にて。シゲルベンガルトラ号頚椎骨折(この後死亡)

【閲覧注意】全世界の残酷な落馬事故

異常行動

異常行動とは、動物が、監禁されるなどの異常な環境に置かれたり、暴力やネグレクトされたときに起こる行動です。精神の危機的な状況が、行動に現れたものです。人間も異常行動を起こします。例えば、刑務所や狭い場所に入れられたときに起こす異常行動は、「拘禁症」と呼ばれます。

馬の異常行動・悪癖には、咬癖(こうへき)、蹴癖(しゅうへき)、膠着(こうちゃく)、後退癖(あとびき)、常同行動には、熊癖(ゆうへき)、さく癖などがあります。

膠着は動かなくなること。熊癖は体を左右に動かすこと。ウィービング(Weaving;)と呼ばれる異常行動。さく癖は、グイッポとも呼ばれ、何かに噛みながら空気を飲む異常行動。クライビング(cribbing)、またはWind suckingと呼ばれます。 [7]

関連記事:動物の異常行動

勝てない馬はどうなる?

訓練を受けた仔馬は、競馬に”デビュー”します。これを「新馬戦」「新馬競争」と呼びます。新馬戦に勝ったら、「1勝馬」とされ競馬ピラミッドの1勝クラスに進みます。勝てなかった馬は「未勝利馬」として未勝利戦に進みます。

勝てない馬は、基本的に地方競馬に転出する、乗用馬にされる、肥育牧場に送られ殺され食べられるなどの道に進みます。

この後、勝った馬は競馬ピラミッドを登り、登った先で勝てない馬は、未勝利馬と同様の道を進みます。

どれくらいの馬が殺されているのか

馬の寿命は、25 – 30年です。少なく見積もって25年とします。

毎年生まれる馬は、7,793頭。[8]存在している馬の数は、47,373頭。[9]

仮に、7,793頭が25年生きていたら、194,425頭存在するはずです。そのうちの約75%である147,052頭はどこに行ったのでしょう。

乗馬施設や養老施設もそれだけの馬を引き取ることはできません。しかし、競走馬の一生はブラックボックスになっているため、関係者でさえも正確に知ることはできません。

引退後の主なルートは、個人や団体に引き取られ養老牧場で飼育される、乗馬用として牧場等に行かされ娯楽利用される、肥育牧場に送られ屠殺され食べられる、などです。

養老牧場について

養老牧場という名称は同じですが、実態は様々です。

馬に共感する人々や団体が設立した牧場は、馬主などと厳しい交渉を行い、馬を譲受け、牧場に引き取り、親身にお世話をします。終生飼育をする場合もありますが、様々な事情で殺処分を行う場合もあります。筆者の知り合いも、馬の引き取りを行っており、その努力には頭が下がります。

一方、競馬業界関係者等が行う養老牧場の中には、純粋にビジネスとして運営している施設もあります。生産牧場や調教、レースで利益を上げ、さらに養老牧場という事業を行えば、馬の生涯をすべて利益化できます。

筆者の別の知り合いは養老牧場に勤めていましたが、暴力は日常茶飯事で殴る蹴るは当たり前だということです。また、いつの間にかいなくなっている馬もおり、行方不明になるそうです。その方が言うには、古い馬を肥育牧場に回し、新しい馬を迎え入れるためにクラウドファンディングを行って収益化すると言っていました。

もがき苦しむ殺処分

殺処分は薬殺で行われます。鎮静剤を打ち落ち着かせ、麻酔薬を投与し昏睡させた後に、筋弛緩剤や心停止薬で殺害します。しかし、馬産地などでは、鎮静剤や麻酔薬を投与せず、意識があるままパコマという消毒液を注射し、殺すことがあるようです。この場合、馬はもがき苦しみ、窒息して死亡します。[10]

筆者の知り合いの競馬関係者は、馬運車の中で馬を安楽死させるところを見たそうです。見ていられないほど、もがき苦しみ死んでいったと言っていました。

殺処分された馬は、かつては食べられたこともありますが、現在は焼却処分されます。

と殺

と殺は、全国のと殺場で行われていますが、46都道府県中、20道県が行っています。

と殺数は、2019年10,300頭、2020年10,291頭、2021年11,367頭、2022年11,198頭、2023年10,098頭。

最も多いのは熊本県で、2023年4,385頭、全体の43%を占めています。ついで、福島県2,050頭、福岡県1,140頭、青森県1,049頭と続きます。[11]

と殺後の馬は食べられたり、皮を剥がされます。食用は、馬刺し、馬肉など。馬油や、ペットフード、動物園の動物の食べ物とされることもあります。皮は、服や装飾品、靴やカバン、クラフト製品などにされます。

目指すゴール

馬の解放

動物解放団体リブの目的は、団体名が表す通り動物の解放です。

解放と言っても、現在人間の支配下にいる馬を自然に返そうと言うわけではありません。家畜化された馬を野生に再導入するのは、技術的にも、空間的にも、コスト的にも不可能でしょう。

動物解放のゴールとは、人間に支配され利用搾取される動物を0にするということです。このゴールを最も早く実現できる施策は、繁殖0、繁殖を止めることです。たった今繁殖をやめれば25〜30年後には、人間に利用搾取される不幸な馬を0にすることができます。

ただし、現実には不可能です。馬によって莫大な利益が生じ、多くの人が利権として分け合っているからです。

現実的には、競走馬や競馬の問題について関心を持ち、解決しようとする人を増やし、世論を競馬廃止へ持っていく施策を行うことになります。産業を徐々に絞っていき、縮小させることによって、人の雇用や生活、そして馬にとっても無理のない段階を経て廃止へ向かわせることが重要です。

現在競馬に関する問題が人の意識の俎上に上りにくい原因の一つとして、競走馬の生涯がブラックボックスにされているということがあります。ブラックボックスを壊すためには、牛と同様のトレーサビリティ法を立法し、すべての馬を管理し、国民に情報公開することが必須となります。

また、競馬存続の最も大きな動機である農林水産省の真下り先・利権の移動を考えなければなりません。可能であれば、動物を利用しないギャンブル、さらにはギャンブルに変わるポジティブな娯楽を農水省の利権として開発することができれば、競馬産業のより早い縮小を実現することができます。

あなたにできること

  • 競馬に行かない、馬券を買わない。競馬に流れるお金が減れば、やがて犠牲となる馬の数を減らすことができます。
  • 乗馬をしない、ホースセラピーに行かない、観光牧場に行かない。馬産業に流れるお金が減れば、馬の利用を減らし、馬の犠牲を未然に防ぐことができます。
  • 競馬や馬産業、馬に起きている問題についてさらに学ぶ
  • 競馬の問題を周りに伝える
  • 業界やマスメディアに意見を伝える
  • ヴィーガンになる。ヴィーガンになることで、馬はもちろん、すべての動物を守ることができます。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護活動です。
  • 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する→詳しくはこちら

動物を解放しよう。

《参照》

[1] Léa Lansade et al. Weaned horses, especially females, still prefer their dam after five months of separation. 2022/10. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1751731122001938#:~:text=Under%20natural%20conditions%2C%20foals%20stop,dam%20at%205%E2%80%937%20months., (参照 2024.08.28).

[2] 馬はどこからやってくるのか. 日本調教師協会. http://www.ijta.or.jp/horse/, (参照 2024.08.28).

[3]https://www.mdpi.com/2076-2615/10/11/1985

[4]https://esc.rutgers.edu/fact_sheet/the-basics-of-equine-behavior/

[5] 馬の病気、ケガ、能力をそこなうものなど. JRA. https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/c10160_list.html. (参照 2024.08.29).

[6] Wikipedia. 予後不良 (競馬).

[7] 【グイッポ知ってる?】馬の6つの癖. EQUIA | エクイア.2023/03/08. https://equia.jp/trivia/post-10337.html, (参照 2024.08.29).

[8] 生産関連統計, 生産頭数. 公益社団法人 日本軽種馬協会. https://jbba.jp/data/statistics.html, (参照 2024.08.28).

[9] 馬をめぐる情勢. 農林水産省. 2024. https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/tikusan_sogo/attach/pdf/sonota-24.pdf, (参照 2024.08.28).

[10] 佐々木祥恵. 【特別企画】苦痛なく安らかな死を… 渡辺牧場の苦悩と決断/引退馬の現状と未来(2). netkeiba. 2014/09/16. https://news.netkeiba.com/?pid=column_view&cid=27750 (参照 2024.08.29).

[11]畜産物流通調査, 令和5年畜産物流通統計, と畜場統計調査, 馬. e-Stat. https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500227&tstat=000001044816&cycle=7&year=20230&month=0&tclass1=000001044818&tclass2=000001218980&tclass3val=0, (参照 2024.08.29).

この記事を書いたライター

リブ_シンボル

動物解放団体リブ編集部

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