近年、私たちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、世界的なパンデミックに見舞われ、感染症が人々の生活や経済にどれほどの影響を及ぼすかを痛感しました。
2023年4月16日時点で、新型コロナウイルス感染症の全世界の累積感染者数は7億6366万5202人、累積死亡者数は691万2080人です。経済損失は、ケンブリッジ大学による5年間の見積もり額で82億ドル(約1兆2千億円)です。
しかし、これは単なる偶然や不運によるものではなく、私たちの社会が動物をどのように利用しているかと深い関係があります。
野生動物の取引、集約型の畜産、そして環境破壊など、人間による動物利用の実態は新たな病原体が人間社会に侵入するリスクを大幅に高めています。動物たちが密集する環境、非自然な生活条件、さらには人間との密接な接触が、病原体が動物から人間に伝播しやすい状況を生み出しているのです。動物利用の現状を見直さない限り、私たちは次のパンデミックに備えるどころか、それを引き起こす要因を自ら拡大していることになります。
本記事では、動物利用がパンデミックのリスクをいかに高めているかを解説し、なぜ動物解放が公衆衛生の向上に繋がるのかを探ります。
人獣共通感染症とは
人獣共通感染症とは、「同一の病原体により、ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方が罹患する感染症」(国立感染症研究所より)のことです。
人獣共通感染症は、狩猟採集時代から存在しましたが、動物の家畜化によって大規模化しました。 [1]
例えば、ペスト、エボラ出血熱、HIV、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザは、人獣共通感染症です。
現在は、毎年約10億人が罹患し、数百万人が死亡していると推定されています。[2]
世界の感染症は増加しており、1970年以降、200以上の新しい感染症が発生しており、そのうち約75%が人獣共通感染症です。 [3]
動物搾取とパンデミックのリスク増加
動物利用はさまざまな形で行われていますが、その中でも特にパンデミック発生のリスクが高いのが畜産業と野生動物取引です。以下では、これらがどのように感染症の温床となり、人間社会へ深刻なリスクをもたらしているのかを見ていきます。
畜産業と感染症の温床
集約的な畜産は動物を狭い空間に大量に閉じ込めて飼育することによって効率的に肉や乳製品、卵を生産するシステムです。しかし、この過密環境は病原体が急速に拡散する理想的な条件を提供します。動物が密集していると、ウイルスや細菌が次々に宿主を乗り換え、感染力を増すことが多いのです。それだけでなく、動物の選択的繁殖により、遺伝子の多様性が失われていることで感染スピードが高まっています。こうした環境で発生した病原体が人間に感染するケースが増加しており、新型のインフルエンザや他のウイルス性疾患の多くがここで発生しています。
野生動物取引とウイルスの伝播
野生動物取引もまた、病原体が人間に移るリスクを高めています。野生動物市場では、さまざまな種の動物が近接して保管され、互いに接触することが多く、その結果、異なる種の間で病原体が広がりやすくなります。新型コロナウイルスが野生動物市場から広がった可能性が指摘されているように、野生動物取引が人間社会に新たな病気をもたらすリスクは極めて高いです。
水産業の抗生物質耐性菌問題
さらに、水産業もパンデミックリスクの一因となり得ます。養殖場では大量の魚が狭い水槽で飼育され、細菌感染を防ぐために抗生物質が過剰に使用されることが一般的です。この結果、抗生物質に対する耐性を持つ細菌(耐性菌)が出現し、これが人間に感染した場合、治療が困難になる恐れがあります。耐性菌の増加はパンデミックの一環として非常に大きな脅威と見なされ、特に人間の抗生物質治療が効かない感染症の発生リスクを高めています。
それだけでなく、畜産が拡大し家畜動物が増えるに連れ、家畜動物の飼料生産のための焼畑・伐採など、農地の拡大による野生動物の領域への侵入が起こっています。それにより、野生動物との接触機会が増え、人獣共通感染症が人界に入り込んでくるリスクが高まっています。[4]
感染症やパンデミックによる動物への被害
感染症があると、まず大量の動物が病気に感染して命を落とします。
それだけでなく、感染症が発生する度に「感染拡大防止」の名目で、同じ場所にいた動物たちは全員まとめて殺処分されます。
かつては狂牛病で、多数の牛が殺されました。今でも毎年、鳥インフルエンザや豚熱などにより、何万頭という鳥や豚が殺されています。
私たち人間は、動物を搾取することによって問題を引き起こし、動物を殺害することで問題解決を押し付けています。
人間による動物利用は、巨大なものです。人類史上、地球史上、これほど膨大な数の動物を産ませては殺し、野生動物を殺している時代はありません。
日々の何気ない肉食や、卵や牛乳の消費が、人獣共通感染症をはじめ、膨大な問題を発生させています。
原因は人間による動物利用
動物利用によって起こる問題を総称して「動物利用問題」と呼びます。
動物利用問題は、「動物への被害」と「人間への被害」に分けられます。人獣共通感染症は「人間への被害」です。しかし、人間の動物利用によって最も被害に遭っているのは、当然ながら動物です。
脊椎動物や無脊椎動物の一部は、意識があり、ゆえに知性や感情や痛覚などを持っていることが分かっています。痛みを感じる動物たちが、私たち人間の食欲によって、想像を絶する苦痛を与えられています。
各動物の状況については、以下のリンクをご参照ください。
そして、動物搾取によって引き起こされた新型コロナウィルス感染症を解決するために、動物たちにさらなる苦痛を与えることによって解決しようとしました。
動物実験です。
実験動物の現状については、以下のリンクをご参照ください。
人類は、動物の苦痛に目を向け、尊厳や権利について真剣に考えるべきです。
私たちの社会、そして私たちの意識は、最も虐げられている弱者に目を向け、誰かが代弁し、権利を擁護し、社会に包摂することで、進化してきました。女性や子供の権利が、世界的に認められたのは、第二次世界大戦後です。人類の意識や倫理観はまだその程度と言えます。私たちは進化の途上にいます。
次は、虐げていることさえ無意識の中に閉じ込められている、動物たちの番です。
人獣共通感染症の根本原因と対策
最も根本的な原因は、動物利用です。
であれば、最も根本的な解決法は、動物利用からの脱却です。
それは動物食を止めること。一人ひとりが肉食から菜食にシフトし、動物利用産業から離れ、ヴィーガンになることです。
国連は、人獣共通感染症の根本的な原因は肉食と環境破壊であり、今後原因になるのは特に豚や鶏などの工場畜産だとしています。人間は、原因ではなく症状を治療していると発表しています。 [5]
これからしばらくの間は、さらに畜産が拡大し、家畜動物が増え続けます。動物性食品の消費も増加し続け、畜産業をはじめとする動物産業はその流れを最大化します。狩猟やペット、ブッシュミートを目的とした野生動物との接触、捕獲、殺害、捕食も増えることが予想されます。
このリスクに対応するためには、事前・事中・事後の対策があります。日本の新型コロナウィルス感染症の対策の経過を振り返ると、事前の対策は弱いもので、事中はパニックになり、対応に追われました。事後は、喉元過ぎれば熱さを忘れるとばかりに、動物性食品を食べ、環境破壊を行っています。
「事前の一策、事後の百策に勝る」と言います。人獣共通感染症が下火になっている今こそ、事前の対策を考えておくべきでしょう。
すべての人が動物食を止めれば、野生動物の捕獲・捕食が無くなり、家畜動物は存在しなくなります。つまり、最大の感染経路を断つことができます。
そして、環境破壊を食い止める、再生させる、健康的な食事と運動を心がけ免疫を高める、などをすることによって人獣共通感染症の事前、事中の対応ができます。
原因の根本に向き合い、反省し、根本原因を消滅させることが、最も有効な解決方法です。
あなたにできること
- 肉・魚・卵・牛乳など動物性食品の代わりに動物性不使用の食にシフトする。そのことによって、長期的に動物食品の供給を減らすことができ、人類共通感染症の根本原因を減らすことができます。
- 革製品やウール、ダウンなど動物性製品の代わりに動物性不使用の衣類を買う。食品と同様、家畜動物を減らし、人類共通感染症の根本原因を減らすことができます。
- 人獣共通感染症や、動物に起きている問題、動物利用から脱却する重要性などについて周りに伝え、動物に関心を持つ人、動物を守る人を増やす →リーフレット無償提供中
- 周りの人に人獣共通感染症について教える、動物産業やマスメディアに意見を伝える
- ヴィーガンになる。ヴィーガンはたった一人でできる、動物保護、動物権利、動物解放、環境保護のための行動です。
- 動物解放団体リブを支援し、動物を守る活動を推進する。リブは動物利用問題の根本解決を目指して活動しているNPO法人です。→支援について
動物を解放しよう。
《参照》
[1] 人類と感染症の歩み. 長崎大学熱帯医学研究所. https://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/newrect/japanese/pdf/2020tarzan788.pdf, (参照 2024/9/11).
[2] Zoonotic disease: emerging public health threats in the Region. WHO. https://www.emro.who.int/fr/about-who/rc61/zoonotic-diseases.html,(参照 2024/9/11).
[3] IASR 動物由来感染症. 国立感染症研究所. 2023/02/28. https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/vertebrata/1481-idsc/iasr-topic/11810-516t.html, (参照 2024/09/10).
[4] Surge in diseases of animal origin necessitates new approach to health – report. FAO. 2013/12/16. https://www.fao.org/newsroom/detail/Surge-in-diseases-of-animal-origin-necessitates-new-approach-to-health—report/
[5] Coronavirus: world treating symptoms, not cause of pandemics, says UN. The Guardian. 2020/07/06. https://www.theguardian.com/world/2020/jul/06/coronavirus-world-treating-symptoms-not-cause-pandemics-un-report, (参照 2024/9/11).