この記事はNPO法人動物解放団体リブによる、動物目線で動物園や水族館がどのような状況なのかを調べた「日本一周!動物園水族館調査」のレポート記事のうちの一つです。
岐阜の大自然、奥飛騨温泉郷にある観光スポットのひとつである、奥飛騨クマ牧場。
こちらは100頭ものクマを見ることができ、子グマとの写真体験や餌やりが体験できるなどが売りになっていて、毎年たくさんの観光客が集まっている場所です。
しかし、実際に調査に訪れてみると、施設は非常に劣悪で、クマはあちこちで「異常行動」をしていました。
奥飛騨クマ牧場の様々な問題
日本全国を回った中でも、奥飛騨クマ牧場は非常に劣悪な施設として印象深いです。
コンクリートで覆われた、動物にとっては最悪な環境

施設はコンクリートで作られており、それだけでなく、床が斜めに作られています。

斜めにしている理由は、「上から水を流すだけで、糞尿を掃除しやすい」という人間の都合で作られた従来型の悪しき名残です。
このようなコンクリート張りで床が斜めになっている施設にいる動物には、大きな負担がかかり、体を傷めたりけがをしやすいのです。
クマは、このようなコンクリートの中ではなく、緑豊かな森にいるべき動物です。
不衛生な施設に閉じ込められたクマたち

汚水が下のブロックに流れ込んできています。

他の施設と比較しても、酷い環境でした。人間がここに一生入れられたら狂うでしょう。人間以外の動物も同じです。
しかし、高い塀の中に監禁されているクマ達は、この状況から逃れたくともできません。
精神が狂ってしまったクマたちの「異常行動」

目的を持たず、ひたすらに頭を左右に揺らしたり、ぐるりと振り回したり、右へ左へ行ったり来たりしたり、あるいは、ぐるぐる円を描くように歩いたりしています。
動物の「異常行動」を知らない方が見ると、散歩をしているように見えたり、踊っているように見えるかもしれません。
しかし、これは、動物たちの精神疾患の現れである異常行動の一種、「常同行動」なのです。
人間も監禁下に置かれると、似たような行動を起こします。人間以外の動物も同様に精神病に陥り、異常行動を起こします。

糞が、散らかっていました。
この調査時、クマたちは食べるものがなかった状況下で、食糞をしているクマもいました。
参考:【保存版】動物の「異常行動」とは?動物園や水族館の動物のストレス・精神疾患について解説
クマに冬眠をさせない施設

奥飛騨クマ牧場は、クマに冬眠をさせてくれません。
もしクマを冬眠させてしまうと、その間、施設は儲かりません。
(餌があるから冬眠しなくても良いと施設側は主張していますが)
クマの習性を蔑ろにしている施設と言えるでしょう。
薄暗く、湿って苔やカビが生えたコンクリートから覗く子グマたちの目に、世界はどのように見えているのでしょうか。
奥飛騨クマ牧場のメインは、子ぐまのふれあい

100頭ものクマたちを監禁しているクマ牧場は、子グマを産ませようと躍起です。

このコンクリートブロックごとに、男女年齢で分けられたクマが入れられていました。
観客から見えない奥の青い檻の中にも、大勢のクマが監禁されており、常同行動に陥っています。
施設は、子グマとの写真撮影や、公開などをイベント事として集客しているため、毎年何名もの子グマが施設内で生まれています。
しかし、疑問も生まれます。
生まれたクマの総数と、今監禁されているクマの総数は合っているでしょうか?
そうは思えませんし、コスト的にも見合いません。
だとしたら、いなくなったクマはどこへ行ってしまったのでしょうか?
奥飛騨クマ牧場のスタッフに何度も聞いたのですが、お答えいただけませんでした。

子グマとのふれあいは、人からしたら貴重な体験だと思います。
しかし、親から引き離された子グマはそれだけで不安を感じ、人に触れられることにもストレスが大きいです。
ぜひ、自分ごとにも捉えてみてください。
知らない人にベタベタと体を触られてどう感じますか?
ずっと誰かから見られ続ける生活を強制的に送らされる生活はどうでしょうか?
感情は人間だけのものではありません。

至る所に、クマのおやつが販売されています。
観客は食べ物を投げ与え、取れないクマに向かって「下手くそ!」などと声をかけ喜んでいます。

営業時間の間、常にクマたちが餌を欲しがったり、お腹をすかせているという状態です。
満腹なら、クマたちも餌を欲しがることはありません。
つまり、観客があげた餌をクマが食べる構図を予想し、敢えてクマ達を空腹にさせているのでしょう。
飢えをしのぐための人間への必死にアピールは、見ていて非常に悲しいものです
奥飛騨クマ牧場だけではない!日本各地にあるクマの監獄

クマに特化した牧場は、日本各地に存在しています。
それだけクマの魅力は高いと言うことですが、奥飛騨クマ牧場同様、劣悪な環境下であることは変わりませんでした。
どの施設でも、クマが常同行動をしていました。
《日本のクマ牧場 7施設》
北の森ガーデン熊牧場 | コーディアックヒグマの常同行動がひどい |
サホロリゾート ベア・マウンテン | 唯一冬眠ができる施設 |
昭和新山熊牧場 | 毛が抜けたり、鼻を怪我している |
のぼりべつクマ牧場 | 至る所で常同行動が見られる |
阿仁熊牧場(くまくま園) | 片手のないクマがいる |
奥飛騨クマ牧場 | 今回、報告している施設 |
阿蘇カドリー・ドミニオン | 廃墟のような施設に閉じ込められている |
秋田八幡平クマ牧場で起きた飼育員死亡事故

2012年、秋田県のクマ牧場から逃げたクマが飼育員の女性二人を殺したという事件が起こりました。
これは、施設に監禁されたストレス、クマのエサ不足等、様々な原因が考えられます。
動物を監禁し続けることで、このような事件が今後も起こりうるでしょう。
日本中の動物園・水族館で動物が苦しんでいる

日本の動物園・水族館は、動物たちにとって良いところなのか、悪いところなのか。
様々な意見はあるものの、当初、日本全国の施設が実際にどのような状況なのかという網羅的な調査はありませんでした。
その課題を踏まえ、2018年から2019年、述べ9ヶ月に渡って、日本全国ほぼ全ての動物園と水族館、計283施設を周る調査プロジェクト「日本一周!動物園水族館調査」を行いました。
その結果、日本中で動物たちが精神病の一種である「異常行動」をしていることが確認され、動物たちが監禁下で人知れず苦しみ続けているという実態が明らかになったのです。
あなたにできること

人間以外の動物も、意識があり苦痛を感じることが科学的にも証明されています。
私たちは生活のあらゆる面で動物利用をしてきましたが、これからは動物利用をしない社会に転換するべきでしょう。
では、あなたに何ができるのでしょうか?
✔ 動物園に行かない選択をする
「自分一人が行かなくても変わらない」と思うかもしれません。しかし、動物園の運営は多くの人の選択によって成り立っています。一人が行かない選択をすることで、同じ考えの人が増え、動物を見世物にするビジネスは続けられなくなります。
✔ 問題を広める
多くの人が、動物園の実態を知りません。SNSでシェアしたり、身近な人と話すことで、動物たちの現状を伝えることができます。

✔ 動物を利用しない選択を支援する
動物を利用しない社会づくりをする団体の取り組みを支援することで、動物たちが本来の姿で生きられる未来を作ることができます。

動物たちは、選択を奪われています。しかし、私たちの選択は、動物の未来を変える力を持っています。動物を利用する社会ではなく、動物の権利を尊重する社会へ、一緒に変えましょう。